遺産分割協議で母子が骨肉の争うで大げんか

■夫婦の別居中に夫が急逝

Sさんとは、ある人の紹介でお会いした。会員制のエステサロンを経営されている60歳の女性で、お会いした半年ほど前にご主人のNさんを事故で亡くされたとのことであった(享年65)。
Sさんとの最初の面談では、Nさんの相続について問題点は特にないように思えた。相続財産は時価3,000万円の自宅と金融資産3,000万円で6,000万円ほどであった。相続人は、配偶者であるSさんと26歳の長男と25歳の次男、そして23歳の三男の4人である。
息子3人はいずれも独身であるがすでに大学を卒業して社会人になっていた。Sさんの希望する遺産分割は「民法通りでいい」という。相続税も課税されない事案であり、これなら特に問題はなさそうだ。
Sさんはエステサロンを、東京郊外の自宅から離れた都心の賃貸マンションで開業している関係で、家族とは別居し、そのマンションで暮らしているとのこと。最初の面談のとき、「次回は息子3人と会って遺産分割の話をしたい」という。そして、すぐにその日が来た。私はSさんに同行して自宅を訪れ、遺産分割協議に立ち会ったのだが、予想もしない光景を目の当たりにすることになった。家族全員が無口のまま席に着き、長男が開口一
番に母親であるSさんを罵り出したのだ。さあ、これから親子4人の遺産分割協議はいったいどうなることやら……。

■遺産分割の話し合いは修羅場と化した

初回の遺産分割協議の話し合いは2時間ほどで終わった。それは母親vs息子3人の激しい罵倒の応酬に終始した。息子たちは嫌悪感や憎悪をむき出しにしてSさんを非難し、Sさんも負けずに言い返していた。Nさんの葬儀から半年ぶりに再会したときには家族の絆はまるで無く、もちろん何も決まらなかった。
最初にSさんから聞いていた状況とは全く違っていた。仕事が多忙のため自宅から離れ、家族と別居していると私は理解していたがそれは間違い。その場でわかったことは、Sさんは亡くなられたご主人と離婚寸前であり、別居の理由は仕事ではなく、離婚を前提としたものであったということ。数年前に自宅を飛び出したSさんは、エステを開業していたマンションに居を移していたのだ。
SさんとNさんの夫婦仲の悪さは、20年以上も前からのようだ。家庭をかえりみず仕事優先のSさんの生活態度にとっくに愛想をつかしていたNさんは、末の息子が大学に入った頃には離婚を決断していたようだ。3人の息子にしても、相当前から家事、育児を放棄してきた母親はもう親ではないと確信している様子。
そして、いよいよ離婚届を役所に出す寸前の日に、不幸にしてNさんは事故死となってしまった。息子3人の主張は、そんな母親は父親の遺産を相続する資格はない、全ての遺産は自分たちのものだと主張する。ところがSさんの主張は、戸籍上相続人である以上、配偶者として1/2の相続分にあたる金融資産3,000万円をもらうというのである。しかし、そんなことを息子3人が許すはずもなかった。

■さらにもめていく遺産分割協議

2回目の遺産分割協議には、仲介人としてNさんの母親、つまりは3兄弟の祖母が立ち会うことになった。高齢ではあるが、いわゆる大正生まれの高貴なご婦人であった。家事、育児を放棄してきたSさんに代わってこの祖母が孫たちの成長を支援してきたようだ。
話し合いは最初から膠着状態となった。息子たちは前回の主張からほんの少しだけ譲歩し、「自宅を除外した金融資産3,000万円のうち遺留分相当の750万円なら渡す」と述べた。しかし、そこから先は一歩も譲らなかったのだ。
その理由は次のようなものだ。40坪ほどの土地と築30年以上の建物からなる自宅は、20年以上前にNさんが中古物件を購入したものであり、共働きにもかかわらずNさん一人でローンを完済した(Sさんの収入はもっぱらエステサロン開業資金に充てられたはず)。
Sさんが離婚を前提に飛び出た後も、私たち3兄弟に自宅を残すためにNさんはローンを払い続けてきたわけであるから、自宅を相続する権利はSさんにはないのではないか。したがって、Nさんの相続財産のうち金融資産の3,000万円だけが遺産分割の対象にあたり、そこから遺留分相当の750万円ならSさんに渡すという。
はじめは泣き喚きながら反論していたSさんだが、姑から諭され最終的には息子たちの主張する遺産分割協議に同意することにした。Sさんは法廷闘争すれば勝てることも知っていたが、骨肉の争いを息子たちとこれ以上する気持ちになれなかったからだ。形だけはなんとか円満相続にすることができた。後日、それが賢明な選択だったとSさんは自省の念を込めながら語っていたのが印象深い……。

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