相続した土地の売却を困難にする、共有名義

■実家の敷地を相続

都内在住のSさん(●歳)は、早くに父親を亡くし、兄弟姉妹もなく、唯一の肉親である母親と賃貸マンションで長らく二人暮らしをしていた。ところがその母親も、半年前に85歳で他界してしまった。母親が残してくれた相続財産は、母親の郷里にある元実家の土地100坪だけであった。しかし元実家の土地は、母親とその弟である叔父との共有名義になっており、その叔父も10年以上前に他界しているが名義は叔父のままであるという。
元実家の建物は、築60年以上前の30坪ほどの平屋の老朽家屋なので資産価値はない。
Sさんの母親は結婚を機に上京しており、叔父の一家も別に自宅があるため、その建物は貸家として30年以上前から母の友人である70代の老夫婦に貸している。数年前からその老夫婦には「将来的には売却したいのでその時は立ち退いてほしい」と伝えていて、了解してもらっている。元実家の土地を売却すれば2,000万円ほどにはなるとSさんは思っている。

■検認された遺言書がので安心

元実家の相続登記も無事に終わったSさんは、以前から売却に好意的な叔父の相続人の1人である叔母に「手続きも終わったことだし、そろそろ売却したい」と伝えた。Sさんは、土地の共有者が叔父の名義のままであることを気にしていたのだ。叔母も高齢ということもあって、この件に関しては叔母に代わって長女でのMさん(Sさんのいとこにあたる)が面倒をみることになっている。
叔父からの相続登記が終わっていないことをMさんに再度確認してみると、「そのことは承知しているが、母親が家庭裁判所で検認された遺言書があるからいつでも登記できるから大丈夫」と答えた。遺言書は亡くなった叔父の仏壇にしまってあるとのとこと。元実家の土地の名義は共有と言っても叔父の持ち分は10分の1である。10分の1といっても売却後の金額に換算すれば200万円ほどにはなるのでMさんも売却には協力的だ。

■土地の相続登記ができない遺言書

数日経って、やっと遺言書がSさんのもとに届いた。叔父が書いた手書きの遺言書には、Sさんの土地についての記述はなく、文面から判断すると次のようになっていた。「その他の財産は、全て、妻M子が采配する」と…。
叔父は、事業家でそれなりの財産を一代で築いてきたようで、元実家の土地の共有名義分は、叔父の記憶には財産としてなかったようだ。その文面に一抹の不安を覚えたSさんは、紹介された司法書士にその遺言書を見せたところ、案の定「この遺言書では登記できないかもしれない」と告げられてしまった。
そこで事前に登記所に伺い書を出して打診すると、数日後には回答を得ることができた。
司法書士の予想通り、この遺言書では相続登記はできないということであった。そうなれば、今から叔父の相続人全員で遺産分割協議書を作成することになるのだが…。

■代襲相続人は行方不明で大騒ぎ

叔父の相続人は3人。叔母と長女であるMさんと長男。だが、長男は結婚後すぐに離婚してその後亡くなっていた。長男には子供が1人いたのでその子が代襲相続人となる。しかし、叔母もMさん一家も、長男と離縁した元妻とは30年以上付き合いがないという。
つまり、代襲相続人は行方不明ということになる。
困ったSさんとMさんは、相続専門のFPに相談し、FPのアドバスによって、戸籍の付票を取り、やっと元妻の住所が判明した。早速、そこへ手紙を書いて出すも1ヶ月が過ぎても何の返事もなかった。やはり姻戚関係が切れて30年以上も音信不通であれば、そう簡単には関係修復は困難ということがわかっただけであった。

■やっと判明した代襲相続人の行方

そんな行き詰まった日々が3ヶ月も過ぎようとしているある日、SさんのもとにMさんから電話が入った。代襲相続人のTさんの居場所がわかったというのである。仏壇の引き出しから1枚の名刺が出てきたというのだ。これは天国の叔父のお導きなのかもしれないとSさんは思った。
それは、海外で空手道場を開くTさんの名刺である。その名刺は、10年以上前に墓前にあったとのこと。早速、その名刺の電話番号に電話するもその回線は通じなかった。せっかくの朗報もまた元の木阿弥になってしまったのか…。そこでSさんは、以前、長男の元妻の住所を探す際に相談した相続士に再度相談に乗ってもらうことにした。
それから数日して、Sさんのもとへ相続士から電話が入った。海外にいるTさんと連絡がとれたとのことだ。相続士が調べたのはインターネットであった。ネットは世界共通。代襲相続人の名前を検索すると何ページ目かでヒットしたのだという。すぐに国際電話をかけて遺産分割協議書の作成に協力してもらえることとなった。
1ヶ月ほど経ってSさんのもとへ届いた遺産分割協議書には、Tさんの暮らす国の大使館印が押されたサイン証明付きとなっていた。その後、相続登記を終えたMさんとSさんは無事に土地を売却できた。Sさんが売却をしようとMさんに話をしてから早1年が経っていたが、結果的には時間が解決してくれたことにSさんは感謝していた。

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