死亡保険金受取人指定は争族対策として有効か?

相続対策には遺産分割対策、納税対策、節税対策といくつかありますが、生命保険を利用した対策がよく取り上げられています。納税のための資金確保、節税のための500万円の非課税枠の利用、遺産分割においては代償分割を考えている場合の資金確保という点で生命保険の利用価値はあります。

では、遺産分割における争いの防止という面では生命保険の利用はどうでしょうか。

ある相続専門家はこう言います。「特定の相続人を死亡保険金受取人に指定することで、遺産分割をスムーズに進めることができます。なぜなら、死亡保険金は受取人固有の財産なので遺産分割協議の場に死亡保険金が遺産として登場することはありません。」

更に、「複数の相続人を死亡保険金受取人と指定して、60%と40%のように割合を指定することができます、具体的な割合を指定しておいたほうが良いでしょう」と。

果たして、この専門家が言うように遺産分割をスムーズに進めることができるのか考えてみたいと思います。

まず、死亡保険金の性質について確認しておきます。この場合にいう死亡保険金は受取人固有の財産であり特別受益に該当しない、というのが遺産との関係でみる死亡保険金の位置付けとなります。但し、他の共同相続人との関係で著しい不公平があるなどの特段の事情がある場合には特別受益として持戻しの対象となる、というのが判例の立場です。特別受益の持戻しの対象となるというのは遺産に加えるということです。

ですから、死亡保険金は原則として受取人固有の財産として遺産に加えませんが、例外もあり遺産に加えることもあるということです。この点を間違えないようにしてください。

次に、原則どおり受取人固有の財産として問題ない場合、本当に遺産分割はスムーズに行えるのか確認します。

死亡保険金は受取人固有の財産という性質上、遺産として取り扱わないので遺産分割協議の対象とはなりません。その性質を利用して、例えば、親の介護を他の共同相続人より献身的に行ってきた特定の相続人に対して、それに報いるために死亡保険金受取人に指定し少しでも多くを受け取るようにするというのは意味のあることだと思います。ただそれが、遺産分割をスムーズに行えるか否か、というのとは別の問題になります。

「受取人固有の財産」というのは判例より導かれた法的性質のもので、「法的にはこう扱う」といういわば机上理論でもあるわけです。実際に裁判になればこの法的性質をもとに審判が行われると思いますが、法廷を離れた「家族の話し合い」である「遺産分割協議の場」では、「法的にはこういうものだ、しかし、、、」ということになりかねないので、「いわば机上理論」と表現しました。

家族の話し合いである遺産分割協議の場ではどういうことが起こりうるのでしょうか。

死亡保険金が受取人固有の財産で遺産には算入しないことは分かった、しかし、その死亡保険金を受け取る分遺産分割による相続分を差し引いて考えるというようなことを他の共同相続人から言われたり、受取人に指定された相続人も死亡保険金は自分の固有財産だから遺産とは関係ない、相続分はしっかり貰うと言ったり、遺産分割の前に死亡保険金の存在について受取人に指定された者とされない者の間で争いが起こりかねないというのが現実ではないでしょうか。

これがほとんど会うようなことのない被相続人の兄弟姉妹の代襲相続人同士というような縁の遠い関係ならもしかしたら死亡保険金のことは隠し通せるかもしれませんが、被相続人の直系卑属である子供同士である場合には保険証券を発見したり、預貯金通帳からの生命保険料の口座振替を発見したりと知られる可能性は多くあります。生前贈与を使って保険料を贈与してたとしても子供同士という近い関係では知られてしまう可能性は高いのではないでしょうか。仮に知られなくても「疑念」というものが起こり得ます。

死亡保険金は受取人固有の財産という性質を使って特定の相続人に多くを遺すというのは良いことだと思います。気を付けなければならないのは、受取人固有の財産だから大丈夫と安易に考えないで、前述したリスクを念頭に置きながら対策を練ることが必要だということを頭の片隅にでも置いておいてください。

最後に、保険金受取人を複数人にして60%、40%などの割合指定をすることに対してですが、もし複数人の指定で割合指定をするなら、特別な事情が無ければ、均等割もしくは法定相続分というようにした方がいいと思います。

均等割や法定相続分以外の割合指定をした場合、多い少ないの違いが出てきてしまいます。その場合にはやはり少ない指定を受けた者が不平不満を言い出し争いに発展しかねませんので、注意が必要です。

以上、今回は死亡保険金受取人指定について「争族対策」という側面からみてきましたが、対策のための手法には万全なものはないので、「リスクの有無」というものを考えながらケースバイケースで設計していく必要があると思います。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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