相続に時効はあるのか

相続が開始し、葬儀等が終わり一段落すると、今度は、「何を」「いつまでに」やらなければならないのかという焦燥感に駆られることがあると思います。「いつまでに」やらなければならないのかというのは「相続人の義務の期限」といっても良いと思いますが、このような相続人の「義務」とは別に、相続人には「権利」もあります。では、この「権利」にも「期限」はあるのでしょうか。つまり、「権利」を行使しないと消滅してしまう「権利の時効」はあるのかという問題です。因みに、「時効」には”取得時効”と”消滅時効”がありますが、今回は、権利が消滅する「消滅時効」についての話となります。

相続の権利というと、まず最初に、「相続する権利」という基本的な権利があります。この「相続する権利」は推定相続人であれば、相続開始と同時に、当然に、権利として発生しますが、相続人自らがこの権利を行使するか否かを選択することができます。この権利を当然に行使するという時には、もともと当然に発生している権利ですから何もする必要はありません、今回のテーマである「時効」とは無関係で、そのまま何もせずに権利は行使できます、いわゆる「単純承認」という制度です。この「単純承認」に対して、「相続する権利はいらない、放棄する」という場合には熟慮期間である3ヶ月以内に手続きを取らなければ「相続権を放棄する権利」は消滅します、「限定承認」の場合も同じで、「相続権を放棄する権利」「限定承認する権利」は、原則、熟慮期間が経過するとできなくなりますので、「時効」による消滅と同じことになります。

熟慮期間内に相続放棄も限定承認もせずに相続を承認すると相続人となりますから、他の共同相続人と「遺産の分割」を協議しなければなりません。

この「遺産の分割」には特に期限がありませんので、いつまでに分割協議が調わないと権利がなくなるということはありません。だから、争いになった場合、必要以上に長引いてしまうのかもしれません。

次に、「遺留分」という制度に「遺留分侵害額請求権」という権利があります。これは、遺留分をもつ相続人(遺留分権利者)が、遺贈や贈与によって遺留分を侵害された(遺留分権利者の遺留分額に達しない)場合に成立する権利であり、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しなければ時効によって消滅します。また、除斥期間として、相続開始から10年が規定されています、10年経過すると権利が消滅します。

そして、あまり馴染みがないかもしれませんが、「相続回復請求権」というものがあります。これは、真正相続人(実際に相続権を有している相続人)が、表見相続人等の戸籍上は相続人でも、実際には相続権を有さない者(相続欠格者、相続廃除者など)により相続権を侵害されている場合に、それらの者に対して、遺産の返還請求をすることができる権利です。この権利は、相続権を侵害された事実を知ってから5年間行使しなければ時効によって消滅します。また、相続開始から20年を経過したときも消滅します。

以上のように、熟慮期間は3ヶ月、遺留分侵害額請求権は1年あるいは10年、相続回復請求権は5年あるいは20年という期間制限があります。この期間を経過すると「権利の行使」ができなくなるということです。

遺産分割には期限がありませんが、期限があると勘違いされている方もいますのでご注意ください。

今回は、熟慮期間、遺産分割、遺留分侵害額請求権、相続回復請求権、という相続法に規定されているものに関して、主だったものというスタンスでお話ししましたが、相続全体をみますと、税法上の期間制限等もありますので、相続の形態によって関わってくるものの期限にはご注意ください。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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