「相続分の譲渡」は解決法となり得るのか

相続において円満と言えるか否かは遺産分割協議の出来如何にかかってくることは周知の事実です。相続人が複数人数になることは珍しいことではなく、ごく当たり前のことで、この複数人数の相続人(共同相続人といいます)が遺産をどのように分けるか話し合うのが遺産分割協議ですが、親子兄弟姉妹間であっても、個々の性格や置かれている状況、相続開始前までの経緯、もっと言えば子供の頃からの家族の歴史等によって、各相続人の考えや主張が違ってくることがあります。

遺産分割協議が円滑に円満に終わればいいのですが、場合によっては、親子兄弟姉妹なのに話し合いができないほど揉めてしまい、調停に持ち込まざるを得ないということもあります。

調停になると弁護士を依頼する(依頼しないで自分でやる人もいますが)ことがほとんどですから、時間だけでなく費用もかかり、心労も積み重なっていことになります。

このようなケースで、遺産分割協議の現場から離脱したい相続人に対して「相続分の譲渡」を勧める専門家がいるようです。果たしてそれは解決策となるのでしょうか。

「相続分の譲渡」を勧める専門家の多くは、民法第905条の「共同相続人の1人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる」という「相続分の取戻権」を根拠にしているようです。

この規定は、他の共同相続人の取戻権を認めたもので、相続人の1人が相続開始から遺産分割までの間に自己の相続分を第三者に譲渡することができることを認めていることが前提となっています。

この規定を根拠とした「相続分の譲渡」ですが、最初から相続分を「いらない」という意思があれば”相続放棄”という手段を取れば良いことで、それができない何らかの理由によって、利用しなければならなくなる手段だと筆者は考えます。

例えば、最初は簡単に終わると思っていた遺産分割協議が泥沼化し、遺産はいらないから分割協議の場から離脱したい(当事者でなくなりたい)というようなケースです。このような場合には熟慮期間の3ヶ月は経過しているのでしょうから、今更相続放棄はできない状況下で他に選択肢がないということになります。

仮に、相続人Aが自己の相続分を相続人Bに譲渡した場合、相続人Aは遺産分割協議の場から離脱しますので相続人A自身の煩わしさは無くなるでしょう、しかし、揉めている遺産分割協議はそれで解決したわけではありません。Aの相続分を譲り受けたBは、自己の相続分にAの相続分を上乗せして遺産分割協議に臨みますから、他の相続人の心情は如何に、、、ということになります。

場合によっては、他の相続人の性格等にもよりますが、相続人Aは他の共同相続人から相続分を譲渡したことの責めを負うことになるかもしれません。違った意味の心労を負うことになるかもしれません。

「相続分の譲渡」を勧める専門家は、共同相続人の頭数が減る分だけ遺産分割協議がしやすくなるということも言っているようですが、そう簡単にはいかない可能性もありますし、離脱したはずの相続人に別の苦痛が待ち受けている可能性もあります。

共同相続人の属性や当該相続の状況など相続全体をみて行動を起こさなければなりません、1人の相続人の利益だけを考えたアドバイスの場合には、利益以上の不利益が潜んでいることもありますのでご注意ください。

『相続分の譲渡」は状況と使い方次第ではないでしょうか、諸刃の剣となることも考えておいた方がいいでしょう。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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