遺産分割協議の解除

 遺産分割は、遺産全体について「遺産分割の基準(民法第906条)」を指針として財産の特性や相続人の属性など諸々の事情を考慮し、特別受益や寄与分という相続分の修正要素を加味した具体的相続分に応じて分割されるというのが基本となりますが、共同相続人の協議によって行う「遺産分割協議」においては、共同相続人の自由意思が尊重されますので、共同相続人全員が合意すれば具体的相続分に反する分割を行うことができますし、被相続人の遺言による分割方法の指定に反する分割をすることもできます。

 遺産分割協議は共同相続人全員での話し合いということになりますが、そこには被相続人と相続人の今までの家族・親族としての歴史や環境、相続人の現況など様々な要因が絡み合って、その家族あるいは親族特有の遺産分割が行われます。

 誰がどの財産をどのくらい取得するのか、なぜそうなるのか、共同相続人全員が納得した上で遺産分割協議は完了して遺産の具体的帰属先(誰の所有になるのか)が決まります。

一般的には遺産分割協議終了後、各種手続きを経て当該相続については終了となりますが、遺産分割協議の際、分割する上での理由(親の面倒を看る等)があり、遺産分割手続き終了後にその理由に反する行為等(親の面倒を看るという約束が果たされていない等)があって一部の相続人が遺産分割協議の無効やり直しを言い出した場合にはどうなるでしょうか。

例えば、長男が被相続人の配偶者の面倒を看ていく約束のもとに二男や三男より多くの遺産を受け取ったが、その責務を果たさなかった場合などがあります。

このようなケースでは、判例は、遺産分割が成立した場合、共同相続人の1人が協議において負担した債務について不履行があったとしても、他の相続人は540条(解除権の行使)によって遺産分割協議を解除することができない、としています。

他方、判例は、共同相続人全員による、遺産分割協議の全部または一部の合意による解除や再分割については、法律上当然には妨げられないとして、解除や再分割を認めています。

要するに、遺産分割協議のやり直しを求める相続人がいた場合、当該相続人が「解除権の行使(540条)」によって一方的に(単独で)遺産分割協議を解除することはできませんが、他の相続人全員の合意を得ることで、すでに行われた遺産分割協議を解除して、再分割を行うことは可能ということになります。

ただし、民法第909条(遺産の分割の効力)の但書にあるように、第三者の権利を害することはできないことになりますから、遺産分割協議を解除して再分割をする場合には、すでに行われた遺産分割後に第三者への権利の移転等があったときには注意が必要です。

相続手続の中で最重要である遺産分割ですが、遺産分割方法の指定によるものであれ、遺産分割協議によるものであれ、いずれの方法を採る場合でも後々トラブルになるような火種があると思われる場合には、可能な限り事前に対処しておくか、あるいは、トラブルにならない方法を考えて、相続人間で争いにならないように、どのような分割にするか熟慮しなければなりません。

遺産分割後には、相続人の生活環境が遺産分割の影響を受けて相続開始前のものと変わってしまうことがあります、そこに遺産分割のやり直しが行われると、再分割の内容によっては相続人の生活環境が再び変わる可能性もあり、大きな負担になることもあります。

「遺産分割協議の解除・再分割」という選択は、メリット・デメリットをよく比較考量して判断しなければなりません。

解決手段となり得るケースもあるかもしれませんが、一度決まったものを解除してやり直すという「再分割」は「争い」の始まりになる可能性を含んでいることも忘れてはならないでしょう。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

相続士資格試験・資格認定講習のお知らせ

日本相続士協会が開催する各資格試験に合格された後に、日本相続士協会の認定会員として登録することで相続士 初級・普通 資格者として認定されます。また、相続士上級資格は上 級資格認定講習の修了にて認定されます。