民法改正…相続財産の管理

 相続が開始したとき、相続人の存在が明らかであれば相続人の承継問題となりますが、相続人の有無が不明の場合には、相続財産を管理(相続債権者・受遺者への清算を含む)しながらも相続人の捜索が必要となります。

 民法では「相続人の不存在」として「相続財産の法人の成立(民法951条)」や「相続財産の管理人(民法952条」」に関して規定されています。

 相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は法人とし、この場合、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、「相続財産の管理人」を選任しなければならないと規定されています。

 そして、この場合の「相続財産の管理人」は、相続債権者や受遺者に対する弁済を行うと同時に、相続人の捜索を行なわなければなりません。つまり、相続人の有無が不明の場合に、当該相続財産を放置することなく、「清算する」という役割があるわけです。

「相続財産の管理」という点に着目してみますと、相続人不存在時における清算という役割を持つ「相続財産の管理人」という制度(民法952条以下)とは別に、民法918条(相続財産の管理)2項の保存を目的とした相続財産の管理制度があります。

つまり、現状「相続財産の管理」という点でいうと、「清算を目的とした管理制度」と「保存を目的とした管理制度」の二つの管理制度があるわけです。

 しかし、両者とも「相続財産の管理人」という呼称で明確な区別もなく、特に相続人不存在時の相続財産の管理人の手続きに関しては煩雑である等の問題もありました。

 今回の改正で、相続人不存在時に選任される相続財産の管理人(清算を目的とした管理制度)は、『相続財産の清算人』と改められ、清算手続の公告期間も全体で10ヶ月超の期間を要するものであったのが、全体で6ヶ月程度に短縮され清算業務が早期に終了するように改正されました。

 また、もう一方の保存を目的とした相続財産管理制度も改正により整理され、①相続人が一人である場合においてその相続人が相続の単純承認をしたとき、②相続人が数人ある場合において遺産の全部の分割がされたとき、③改正民法952条1項規定の『相続財産の清算人』が選任されているとき、以上①②③以外の場合には幅広く必要に応じて相続財産管理人が選任されることになります。

 現行民法918条2項の相続財産管理人等の制度を「保存のための相続財産の管理制度」として従来通りの「相続財産の管理人」と呼称し、改正民法の「清算を目的とする相続財産の管理制度」における相続財産管理人を「相続財産の清算人」と呼称することで、区別することになりました。

そして、今まで意外と盲点とされていたともいえる「相続放棄者の相続財産管理」についても改正されました。

 現行民法940条(相続の放棄をした者による管理)において、「相続を放棄した者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」と規定され、相続を放棄したにもかかわらず一定の管理義務がありましたが、相続による不利益を回避するために相続放棄をするという制度の趣旨にそぐわないということで、今回改正されることになったようです。

 改正後は、「相続を放棄した者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」となり、『当該相続財産を現に占有しているときに』と限定されました。

 相続財産の管理制度というものは、一般の方には実際はそれほど関係してこないかもしれませんが、相続放棄との関係でこのような制度があることは概要でも知っておくと良いかもしれません。

 相続放棄者の管理義務に関しては、「当該相続財産を現に占有しているか否か」がポイントになりますので、相続放棄を視野に入れている方はポイントを掴んでおきましょう。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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