死亡保険金と特別受益
日本では多くの方が生命保険に加入しています。万が一の時には金額の大小はともかく受取人が死亡保険金を受け取っていますが、相続人のうち1人だけが、被相続人が加入していた生命保険の死亡保険金を多額に受け取った場合、その保険金は「特別受益」に該当し、相続財産に持ち戻したうえで遺産分割をする必要があるでしょうか?
まずは特別受益についておさらいです。特別受益には、1.遺贈・2.婚姻・養子縁組のための贈与・3.生計の資本としての贈与、の3種類がありますが、「家を買うに資金の一部を出してもらった」「海外留学や医学部の入学金・授業料など、他の相続人に比べて多額の援助をしてもらった」というような3に該当するものが後々問題となる場合が多くみられます。
なお、相続税法における贈与財産の持ち戻しは相続開始前3年以内となっていますが、遺産分割における特別受益の持ち戻しについては期限がなく、民法では相続発生時の価額によって行うと規定されています。
ちなみに、被相続人が遺言で「特別受益の持ち戻しをしない」旨を表示することで、特別受益の持ち戻しをすることなく遺産分割を行うことも可能です。これも民法に「特別受益の持ち戻し免除」として規定されています。
ただし、特別受益の持ち戻しの免除を行うためには、特別受益を受けていない相続人の「遺留分」を侵害しないことが前提となります、持ち戻しをしない旨の意思表示をしていても、遺留分の算定では特別受益分も財産に含めることになりますので注意が必要です。
死亡保険金はこの特別受益に該当するのか?ということですが、原則「受取人固有の財産」とされているため、民法上の相続財産には含まれず、また特別受益にも該当しません(最高裁判例:平成16年10月29日)。生命保険を活用することによって法定相続分や遺留分に関わらず、特定の相続人に財産を渡すことが可能になるということです。
ただしこの最高裁判決では、保険金を受け取った相続人とその他の相続人の間で、「財産の受取額に著しく不公平が生じる場合など」は特別受益に該当するとしています。
実際に、相続財産の総額に対して死亡保険金の額の割合が極めて高い、被相続人と高額な保険金を受け取った妻との婚姻期間が極めて短い(例えば3年程度)など、受け取った死亡保険金の金額や遺産総額に対する割合、保険金受取人・被相続人・その他の共同相続人における関係性などを総合的に状況を判断したうえで、死亡保険金は特別受益に該当すると判断されたものもあります(東京高裁:平成17年10月27日・名古屋高裁:平成18年3月27日)。
いくら「受取人固有の財産」になるとはいえ、特定の相続人が多額の死亡保険金を受け取るような保険契約は、後々相続人間の争いの火種にもなりかねませんので、保険加入の際は相続財産の総額やその分割方法、相続人間の関係性等を考慮して受取人や保険金額を検討する必要があります。
このページのコンテンツを書いた相続士
- 相続士、AFP
1971年東京都生まれ。FP事務所FP EYE代表。NPO法人日本相続士協会理事・相続士・AFP。設計事務所勤務を経て、2005年にFPとして独立。これまでコンサルティングを通じて約1,000世帯の家庭と関わる。
相続税評価額算出のための土地評価・現況調査・測量や、遺産分割対策、生命保険の活用等、専門家とチームを組みクライアントへ相続対策のアドバイスを行っている。設計事務所勤務の経験を活かし土地評価のための図面作成も手掛ける。
また、住宅購入時の物件選びやローン計画・保険の見直し・資産形成等、各家庭に合ったライフプランの作成や資金計画のサポートを行っている。個人・法人顧客のコンサルティングを行うほか、セミナー講師・執筆等も行う実務家FPとして活動中。
FP EYE 澤田朗FP事務所
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