遺言書があったがために…。その1

昨今の終活ブームにあわせて、エンディングノートや遺言書についても注目を浴びているのはご承知のことと思います。エンディングノートについては法的な拘束力は無いため、家族へのメッセージや葬儀の方法など、自分の想いや気持ちを伝えるために作成するという側面が強いですが、これに対して自分の死後に誰にどの財産を遺したいのか、法的に有効な形で自分の想いを遺せるのが遺言書となります。

自分の直筆で作成するのが「自筆証書遺言」で、費用もかからずその内容も自分以外に知られずに作成できる等のメリットがありますが、文字が不明瞭で読めなかったり記載内容があいまいだった場合などには、その効力が無効になったり相続人間のトラブルの原因となってしまうことがあります。個人的な意見ですが、もし遺言書を作成するのであれば、費用はかかるが「公正証書遺言」で作成をしたほうが、「法的」には有効な遺言書を作成できるのではないかと考えます。

 

・公正証書遺言のメリットと作成方法

メリットとしては前述のとおり、公証人が作成するため法的に有効な遺言書が作成できるほか、相続発生後に家庭裁判所の検認の必要が無いため、様々な相続手続きがスムーズに行えることが挙げられます。自筆証書遺言の検認手続きには1か月以上かかることが多く、それに対して相続後の主な手続きとして3か月以内に相続放棄の申述、4か月以内に準確定申告、10か月以内に相続税申告があり、1か月以上の時間的なロスは影響が大きいように思えます。

また、公正証書遺言に限りませんが、遺言書で特定の相続人に特定の財産を渡す旨を記載すれば、例えば不動産の場合その相続人の印鑑証明等があれば登記が可能となります。それに対して遺言書が無く遺産分割協議を行った場合には相続人全員の印鑑証明が必要となり、その分手間と時間と費用がかかることになります。

 

作成の手順として、まずは財産内容の把握をしてから遺言の具体的な内容をまとめます。行政書士等の専門家に依頼をすれば、打ち合わせのうえ原案作成も行ってもらえます。その後、公証役場で公証人に原案の内容を事前に伝え、確認・検討をしたうえで公正証書遺言の内容を固めていきます。これに前後して後日行う最終的な遺言作成の際に立ち合いが必要となる、証人を2人選定します。未成年者や、推定相続人などの利害関係者以外なら証人になることができます。

最終的な遺言作成の日程を決めたうえで、その日までに必要書類を集めます。必要な書類は財産の内容によって異なりますが、遺言者の戸籍謄本と印鑑証明書、財産に預貯金等金融商品がある場合には通帳のコピーや株式・投信等の時価がわかるもの、不動産がある場合には登記簿謄本と固定資産評価証明書等が必要となってきます。当日証人2人と共に公証人が読み上げる遺言の内容を確認し、それぞれが署名捺印を行い、公正証書遺言の完成となります。

 

これで「法的」には有効な遺言書が完成するわけですが、実質的には特定の相続人にとって有利な内容だったため、相続人間の関係が悪化してしまうケースも散見します。今年相談を受けた2つの事例もこれに当てはまります。

次回はその内容についてお伝えしたいと思います。

 

(続く)

このページのコンテンツを書いた相続士

澤田 朗
澤田 朗
相続士、AFP
1971年東京都生まれ。FP事務所FP EYE代表。NPO法人日本相続士協会理事・相続士・AFP。設計事務所勤務を経て、2005年にFPとして独立。これまでコンサルティングを通じて約1,000世帯の家庭と関わる。

相続税評価額算出のための土地評価・現況調査・測量や、遺産分割対策、生命保険の活用等、専門家とチームを組みクライアントへ相続対策のアドバイスを行っている。設計事務所勤務の経験を活かし土地評価のための図面作成も手掛ける。

また、住宅購入時の物件選びやローン計画・保険の見直し・資産形成等、各家庭に合ったライフプランの作成や資金計画のサポートを行っている。個人・法人顧客のコンサルティングを行うほか、セミナー講師・執筆等も行う実務家FPとして活動中。

FP EYE 澤田朗FP事務所

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