相続における認知症と成年後見制度
相続の現場では色々な問題が発生します。その中の一つに相続人が認知症になってしまった場合があります。
今日本は未曾有の高齢社会に突入しています。医療技術の進歩あるいは健全な食生活の習慣化等に伴い平均寿命が伸びていますので、被相続人の死亡時の年齢も高齢化しています。そしてこれに比例して相続人の年齢も高齢化してます。
相続人が高齢化していくことの問題点としては、相続開始の順番が逆転してしまうなどありますが、相続人が認知症になってしまうという問題点もあります。相続人本人が生存していますので法律上の問題点が多々出てくることも確かです。
ではなぜ認知症が問題点となるのでしょうか。
認知症とは、脳の神経細胞の死滅や破壊により、記憶、思考、感情などをコントロールする機能に不具合が生じることで様々な障害が起こり、日常生活に支障が表れている状態を言います。以前は痴呆と呼ばれていたもので2004年に改称されています。
この認知症、物忘れという記憶障害が代表的な症状とされていますが、他に中核症状(認知症の基本的な症状)としては、理解・判断力障害や失語などもあります。また、周辺症状として、幻覚や徘徊、抑うつ、妄想などもあります。このように、個人差はあるにせよ様々な症状のある認知症。日常生活は送れても難しいことはできないのが一般的です。つまり、契約や解約などの法律行為は認知症の方には難しい行為なのです。法律行為に重要な「判断能力」が衰えてしまっているからです。実は遺産分割協議や相続の承認・放棄も法律行為に該当します。ですから、相続人が認知症である場合、相続開始に伴う様々な法律行為に対応できないという問題が生じます。
このような場合の対応策として成年後見制度の利用が考えられます。
成年後見制度には法定後見制度と任意後見制度があります。時系列的な順番でいきますと、まず検討するのが任意後見制度です。これは本人が将来的に自分の「判断能力」が低下した場合に必要な法律行為を代わりに行ってくれる人(代理権を与える人)を自分で選び契約しておくというものです。代理権を与えられた人を契約効力発生前は「任意後見受任者」、契約効力発生後は「任意後見人」といいます。家庭裁判所に任意後見監督人の選任の申立てを行い、任意後見監督人の選任後契約の効力が発生し、任意後見契約がスタートします。
成年後見制度の中のもう一つの制度、法定後見制度は本人の「判断能力」が低下した場合、家庭裁判所に申立てを行い、審判が確定した時にスタートします。法定後見制度の場合には、本人の「判断能力」の低下の度合いに応じて後見・保佐・補助のいずれかの審判となります。後見・保佐・補助のいずれになるかによって、代理権・同意権・取消権の付与が異なります。権利を与えられる人を成年後見人・保佐人・補助人と言いますが、後見だけ「成年」と付いているのは、未成年後見人と区別するためです。
この成年後見制度を利用した場合、任意後見制度であれば「任意後見人」が、法定後見制度の後見であれば「成年後見人」が代理権を行使して、本人に代わって遺産分割協議に参加することになるわけです。
単純に考えると、非常に面倒な状態になるわけです。身内の話に他人が入ってくるわけですから。だったら、身内が成年後見人等になればいいじゃないかと思われる方もいらっしゃると思いますが、本人と利益相反関係にある者は、たとえ成年後見人に就任していたとしても代理権に制限がかかり、遺産分割協議は行えないのです。このようなことも踏まえて、成年後見人等の候補者選びは家庭裁判所任せにせず、申立者を含む関係者でじっくり検討していきたいものです。(申立時に候補者を挙げることができます)
成年後見制度は成年後見人に就任した法律の専門家が本人の預貯金を使い込むなどの問題が多発して制度自体の問題ともされています。成年後見制度を利用する場合には、このような問題も把握した上で、候補者選びを積極的に行って頂きたいと思います。
また、成年後見制度を利用せざるを得ない状況となる原因である認知症。これについても予防が重要となります。自分の親がある程度の年齢になったら意識していく必要があると思います。予防を行うことで進行を止める、あるいは遅らせることも可能です。放っておくと、知らぬ間に、一気に、なんてこともあり得ます。認知症予防はある意味子供達の義務であるかもしれません。
しかし、認知症予防も成年後見制度の利用も一般の方には難題です。アドバイスできる、お力になれる専門家は必ずいますので、頼れる専門家を探しておくと良いと思います。因みに、相続士の中にもこのような分野を得手としている人がいますので問い合わせてみてください。
このページのコンテンツを書いた相続士
- 行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所
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