認知症の相続人の権利の時効 その2

前回の続きです・・・。

最高裁では、原審の判断は是認することができないとされました。

問題となる民法158条1項ですが、最高裁で以下のように述べられています。

「この規定の趣旨は、成年被後見人等は法定代理人を有しない場合には時効中断の措置を執ることができないのであるから、法定代理人を有しないにもかかわらず時効の完成を認めるのは成年被後見人等に酷であるとして、これを保護することにあると解釈される。」

判断能力が衰えている成年被後見人等は自身で法律行為を行うことができないのであるから、法定代理人がいない状況下で時効により正当な権利の消滅を認めるのは酷である、成年被後見人等を保護することが民法158条1項の趣旨である、と述べています。

そして、もう一つ問題となるのが、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあるものの、まだ、後見開始の審判が確定していない者については、既にその申立てがされたとしても、民法158条1項にいう成年被後見人に該当するものではない、という点です。たとえ、判断能力が衰えて法律行為を自身で行うことのできない状況下であっても、後見開始の審判を受けていない者は、民法158条1項に述べられている成年被後見人は該当しないので、民法158条1項による保護を受けることができないのが原則ということです。

しかし、最高裁では以下のようにも述べられています。

「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあるものの、まだ、後見開始の審判が確定していない者についても、法定代理人を有しない場合には時効中断の措置を執ることができないのであるから、成年被後見人と同様に保護する必要性があるといえる。また、その後に後見開始の審判がされた場合において、民法158条1項の類推適用を認めたとしても、時効を援用しようとする者の予見可能性を不当に奪うものとはいえないときもあり得るところであり、申立てがされた時期、状況等によっては、民法158条1項の類推適用を認める余地があるというべきである」

前述の、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあるものの、まだ、後見開始の審判が確定していない者についても、申立てがされた時期、状況等によっては、民法158条1項の類推適用を認める余地があるといっています。可能性を残しました。

さらに、最高裁では、

「時効の期間の満了前6箇月以内の間に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者に法定代理人がない場合において、少なくとも、時効の期間満了前の申立てに基づき後見開始の審判がされたときは、民法158条1項の類推適用により、法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間は、その者に対して、時効は完成しない、と解するのが相当である」としました。

この最高裁の判断を当該事案に当ててみると、

Aについての後見開始の審判の申立ては、遺留分減殺請求権の時効の期間の満了前(起算点平成20/10/22、申立て平成21/08/05)にされたものであるから、Aが時効の期間の満了前6箇月以内に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあったことが認められるのであれば、民法158条1項を類推適用して、弁護士Kが成年後見人に就職した平成22/04/24から6箇月を経過するまでの間は、Aに対して、遺留分減殺請求権の消滅時効は完成しないことになります。

このような点を審理判断することなく、Aの遺留分減殺請求権の時効消滅を認めた原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があると、結論づけられました。

(平成25年第1420号遺留分減殺請求事件平成26年3月14日第二小法廷判決より)

前回、今回と2回に渡り判例のご紹介をさせていただきましたが、今後の高齢社会は相続の現場で様々な問題を引き起こしかねません、しかも複雑のものとして。そうならないためにも事前の準備は欠かすことができません。

起きてからでは遅い、ということもあります、自分の家族は?相続の時は大丈夫か?しっかりと考えておく必要があると思います。

また、相続の専門家は複雑な案件でも対応できるように準備しておく必要があると思います。

裁判所が介入する相続は避けたいものです。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

相続士資格試験・資格認定講習のお知らせ

日本相続士協会が開催する各資格試験に合格された後に、日本相続士協会の認定会員として登録することで相続士資格者として認定されます。また、相続士上級資格は上 級資格認定講習の修了にて認定されます。