分けられない不動産の承継について一考察
相続という話をしたときに、まず頭をかすめるのが「大変」「揉める」などの言葉ではないでしょうか。一般に相続のことを「争族」ともじられたりもします。しかし、相続はお金持ちの話だから我が家は関係ない、というように無関心を装った方々が多かったのも事実です。
ところが、平成27年1月1日の相続より相続税の基礎控除や相続人毎の控除額が引き下げられ、今まで相続税とは無関係だった層の方々も無視できない状況になりました。これをきっかけに相続に対する関心もより高まったのではないかと思われます。
そこで多くの方が考えるのが、まずは「相続税の対象なのか」、そして冒頭でも申し上げた「揉めないか、争いにならないか」ということではないでしょうか。そして、相続税がかからなくても、「自宅不動産と預貯金少々」という一般的なケースが一番揉め易いということに気づいていない方々が圧倒的に多いのも事実です。
では、相続はなぜ揉めるのでしょうか。相続で揉める一番の原因は「被相続人が遺した財産を、相続人でどうやって分けるか、誰がどれだけ取得するのか」なんです。遺産分割の方法は指定分割と協議分割と審判分割とあります。審判分割は家庭裁判所が介入するもので、他の2つとは異なりますので、ここでは省かせて頂き、指定分割と協議分割について触れていきながら「揉める」ということについてお話ししたいと思います。
指定分割とは、遺言で相続分の指定を行うことをいいます。長男には自宅不動産、二男にはA市にある不動産、長女にはB銀行の預金などと遺言者が誰に何を相続させるか、遺産の分割方法と相続分を指定することです。
最近では、遺言作成を勧める専門機関や専門家が増えてきましたし、メディア等を通じて遺言の必要性が唱えられ、一般に普及し認識されてきました、しかし、遺言を作成しても、あるいは、遺言を作成したがために「揉める」ことになってしまうことが多いのも事実です。
その原因の一つに自宅不動産があります。被相続人名義の「自宅不動産」を誰が承継するのか、遺言では誰が相続するように指定されているのかによって「揉める」原因と成り得ます。
特に遺言の場合には、自筆証書遺言であろうと公正証書遺言であろうと、何故そのような指定をしたのか不明、あるいは、疑問がある場合、例えば、「自宅不動産」を相続するのは長男の予定だったのに、遺言では二男が指定されていたとしたら、、、、そして、遺言で指定されることを二男は知っていたけど、長男は知らなかったとしたら、、、かなりまずい状況になるのは確かです。
ここで必要なのは、「明確な理由」です。この「明確な理由」を書いていない遺言が多いので、「揉める」原因に成り易いのです。
協議分割とは、遺言がない場合には、どの遺産を誰に帰属させるかを共同相続人全員の協議(遺産分割協議)によって決めることです。協議分割の場合には、被相続人の意思とは関係なく、共同相続人全員が協議を行い遺産の帰属を決めていきますので、ここに「揉める」火種があるのです。
誰がどの遺産を取得するか、他の者はどう考えているのか腹の探り合い、自分の希望を主張する者しない者、配偶者の考えに影響を受ける者、その他諸々の要因が遺産分割協議の場には存在します。その中でやはりキーとなる遺産は『不動産』です。
被相続人が自宅不動産を所有していた場合には必ず「自宅不動産を承継することになるのは誰か」というのが焦点となります。相続人全員がその者が承継することが当然であり、納得いくのであれば問題ありません。
被相続人が作成した遺言が「相続させる旨の公正証書遺言」であれば、即移転登記も可能となります。問題となるのは、相続人全員がその指定が当然と思えなくて、納得いくものでないときです。
遺言は遺言者である被相続人の最終意思であり協議分割に優先します。
しかし、相続人全員(遺贈があるときは受遺者を含む)の合意があり、更に遺言執行者の指定がある場合には遺言執行者の合意を得ることで、遺言と異なる遺産分割も可能となります。
ですから、遺言内容に疑問があり合点がいかないものであった場合で、かつ、その他に争いがない場合は、遺言と違う分割をすることも可能になります。
以上のように考えますと、争いのない相続を行うためにはそれなりの準備が絶対に必要になってくるのはお分かり頂けると思います。
不動産は共同相続人の数で切り分けることはできません、早めの準備をして争族となるのを回避したいものです、不動産に詳しい相続の専門家が頼りになります。
このページのコンテンツを書いた相続士
- 行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所
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