「笑う相続人」と「ほくそ笑む相続人」

相続が開始して最初の作業が、亡くなった人の財産を承継する権利を有するのは誰かということです。以前に「相続人は誰か?」のコラムでも相続人について代襲相続や養子等について触れましたが、今回は少し違った角度でお話ししたいと思います。

西欧諸国では昔から「笑う相続人」という言葉が存在していました。「棚ぼた」のように自分が遺産を承継することになった人、普段は被相続人とは全く交流がなかったのに、あるいは血縁ということすら知らなかったのに、自分しか承継する人が存在せず、遺産を承継することになった人などのことを指すようです。

日本ではどうでしょうか、なるほど、「笑う相続人」になるケースはあるようです。

日本の相続に関する法律は原則「法定相続主義」の考えが採られています。財産はできるだけ家族の中で留めておかなければならず、それを承継する人も法律が定め、個人が勝手に決めることはできない、というものです。

これは私有財産制の財産処分自由の原則と対立するものですが、詳細は別の機会に回しまして、法定相続主義を原則としていても「笑う相続人」が出てくることに触れたいと思います。

法定相続主義から導き出される相続人とは、みなさんご存知の「法定相続人」です。法定相続人には配偶者相続人と血族相続人がいます。配偶者は常に相続人になりますが、血族相続人には順位があり、上位者がいる場合には次順位の者には相続権はありません。

この血族相続人に「笑う相続人」がいるのです。それは最後の順位である被相続人の兄弟姉妹、その代襲相続人です。つまり、被相続人の甥や姪にあたる者が「笑う相続人」になり得るのです。

被相続人の兄弟姉妹の代襲相続は一代限りという制限はありますが、甥や姪という立場、被相続人と関係性が薄くなりやすい関係であるということは確かです。

普段から行き来がありよく知っているという関係から、会ったこともないという関係まで様々です。会ったこともない関係の場合に、血縁関係上相続権が発生したとき「笑う相続人」となり得るのです。

もちろん負債がある場合にはそれも負うことになります。厄介なのは、被相続人に子がいない場合に、相続人が配偶者と「笑う相続人」となった場合です。

そして、もう一つ、筆者が敢えて表現した「ほくそ笑む相続人」。

これは、法定相続人のもう一つ配偶者相続人に関することです。法律上配偶者は血縁関係がないにもかかわらず常に相続人になります。その根拠には、被相続人とともに長年連れ添った配偶者は被相続人の財産形成に大きく貢献したことなどがありますが、これは婚姻生活が長期間に渡った夫婦だから言えることではないでしょうか。

婚姻生活が1日でも法律上の配偶者であれば相続権が発生してしまうのが今の法律です。事実婚が多くなった昨今では、すべてとは言いませんが、「ほくそ笑む相続人」となり得る、いや、なろうと考えている人もいるようです。

状況を見ながら自分に最も都合のいい時に入籍して遺産を取得する「ほくそ笑む相続人」、争族の現場の主役に躍り出てきます。

「笑う相続人」を排除するために法の改正が必要だと主張する法の専門家がいるようですが、「ほくそ笑む相続人」の排除も絶対に必要だと思います。

遺産分割協議の場の中央に「ほくそ笑む相続人」が座っていることだけは避けたいと、個人的には思います。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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