遺言作成は慎重に!

ここ数年相続について考えることが社会的に一般化され、以前は“縁起でもない”と言われていたことが今は積極的に考え準備する人が増えてきました。

これはメディアによる情報発信が大きな影響を与えていますが、税制や民法など法律の改正も追い打ちをかけているのではないでしょうか。

そんな中、依然として相続の問題として取り上げられるのが、相続人間の争いです。争族や争続と揶揄されていますが、その対策の筆頭として挙げられるのが「遺言」です。

遺言を書きましょう、争族対策には遺言が有効です、などと情報発信されているのはご存知のことと思います。

それなら遺言を作成しよう、と早まらないでください。遺言を作成するためには検討・確認等をしなければならない事項がたくさんあります。遺言を作成するのは重労働だと言われるくらい大変な作業が待っています。

簡単にみていきますと、まずは自分が遺すであろう財産の棚卸です。一般的に財産目録の作成と言われています。

ここで注意しなければならないのは、財産目録の作成が大変だからといって、財産目録も作成せずに、安易に「割合変更」の遺言を作成することは避けなければならないということです。「長男の法定相続分1/4を1/3に変更する」といったものです。

実務に乏しい専門家は「法定相続分の割合変更をしてあげましょう」などとアドバイスするかもしれませんが、これは法的に有効なのですが、実務上は避けるべき方法なのです。詳細は長くなりますのでまたの機会にお話しします。

財産目録の作成が終わったら、次に、その財産を誰に相続させるか、そして、その財産の振り分けの指定が争い事にならないかの検討です。

ここで注意しなければならないことは、遺言者本人が遺言作成後に介護状態になった時に誰が面倒をみることになるのか、ということを念頭に入れて検討することです。

相続で揉める原因は「遺産の分け方」ですが、その要因の一つとして「親の介護」があります。これはかなり大きな要因となり、「親の介護をした者」と「しない者」で争いになる可能性が多分に出てくるのです。

ましてや、遺言で他の共同相続人より多くの遺産の相続を指定された者が「親の介護をしない者」に該当し、「親の介護をした者」がより少ない遺産の相続の指定だった場合には目も当てられません。

超高齢社会となっていく現代において、親の介護の確率はどんどん高くなります、介護する側も高齢となり「老々介護」という言葉まで出てくるほどです。

争族対策としての遺言を作成する際には、自分が介護状態になった時のことも想定しておく必要もあると思います。

一方で遺言は、遺言者が自由に撤回し、書き直すこともできます。しかし、介護状態になった時に、「やっぱり変更しよう」と思ってもなかなかできないのが現実ではないでしょうか。

先々を見ての遺言作成、大変難しいことです、専門家の助けを借りないと先々の可能性を考えながらの遺言作成は不可能かもしれません。

段階的に準備していくという方法もありますが、これも大変な作業ですから一人では難しいでしょう。

遺言作成は、教科書的な作成は控えて、遺言者の家族や生活状況等を考慮していく必要があるでしょう。

そして、先々の遺言者自身や家族などの状況の変化も考慮に入れて考えていく必要があるでしょう。

遺言は元気なうちに書いておきましょうとよく言われますが、元気なうちに書くのであれば余計に自分が衰えたときのことなど、先を見ることが必要です。

争族対策のためにと思い作成した遺言がもとで、相続人が争うことになってしまっては元も子もありません。

セカンド・オピニオン、サード・オピニオンも活用して、自分にあった専門家を探してみてください。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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