遺産分割協議書は必要か?

相続が開始すると葬儀やお墓の問題、49日法要などバタバタと目まぐるしい日々が過ぎていきます。その最中、若しくは、少し落ち着いた頃、被相続人の遺産をどのようにするか、ということが浮上してきます。遺言がなければ、共同相続人で協議を行い遺産の帰属先を決めなければなりません。いわゆる遺産分割協議です。

相続にあまり関心のない方、遺産が少額だからか相続手続きの必要性に気づいていない方など、相続開始後に相続手続きをしっかりやらない方が少なからずいらっしゃいます。

そういう方は当然に遺産分割協議を行わず遺産分割協議書の作成を行っていません。被相続人が不動産を所有していない場合には、何の問題も起こらずに平穏に生活できてしまうのも事実です。金融機関も死亡の事実を知らなければ口座の凍結は行いませんから、被相続人の口座をそのままということもあり得ます。しかし、被相続人が不動産を所有していた場合には、当面の間は平穏に過ごせていても後々問題が発生する可能性があります。

例えば、父・母・長男・二男の四人家族で父が死亡して相続が開始した時に、父名義の不動産を誰に帰属するか決めずに、将来的には父母の面倒をよく看ていた二男が承継することを口約束程度で済ませた場合に、母の死亡による二次相続の際に、考えが変わった長男が不動産の承継を長男という立場を利用して強く主張した時、父名義であった不動産を巡り長男と二男の間で確執が生じてしまい、なかなか話がまとまらないことになってしまいます。

このようなケースの場合に、父の死亡の一次相続の時に遺産分割協議をしっかり行い、遺産分割協議書を作成して父名義の不動産を二男名義に移転登記するなどの手続きをしっかり行っておけば、二次相続の時に大きな問題には発展しなかったのではないでしょうか。

この場合、遺産分割協議書の果たす役割というのは、

①共同相続人同士で話し合い、納得の上で決めた約束事の決着記録・証拠、

②後になっての話の蒸し返しの予防、

③被相続人名義の不動産の名義変更(移転登記)や金融機関の被相続人名義の口座の解約払戻などの手続き上の必要書類(外部に向けての遺産の帰属の証拠書類)

などがあります。

手続き上の役割としては③が重要ですが、共同相続人間で言えば、①が重要な役割を果たし②が付従する形となると言えます。後々の争いを防ぐということです。

専門家によっては③を重視して、金融機関には専用の用紙があるからそれで手続きはできるので遺産分割協議書は必要ないという人がいますが、それは①や②が全く見えていないと言わざるを得ません。

遺産分割協議書を作成するということは、とりもなおさず、遺産の帰属先を決定するということですから、不動産の名義変更等も可能になるわけですから、引き続き移転登記をすることになります。

不動産の移転登記を行わないために、後々発生する様々な問題もあります。これについてはまたの機会にお話ししたいと思います。

相続が開始したら、被相続人の遺産を誰がどのように承継することになったか、遺産分割協議書を作成して残しておくようにしましょう。遺産の額に関係なく・・・です。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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