民法改正による「配偶者居住権」創設・・・どうなるのか

相続法制の見直しが検討されていますが、以前より当コラムでお話ししていますように配偶者を優遇する、配偶者の生活を守るという観点から改正点の検討がされてきました。

今回民法改正案の要綱案がまとめられ「配偶者居住権」というものが新設されるようです。

どのようなものか簡単にご説明します。

この「配偶者居住権」は譲渡や売買はできませんが、亡くなるまで行使できるというもので、その評価額は平均余命などをもとに算出されるようです。この評価額は通常の評価額より安くなるというものらしいですが、この評価の方法については誰が行っても同じような評価数字が出るようにしておかなければ、評価額に関しての争いになる恐れもあります。なぜなら、この評価額が遺産分割に影響を与え、他の相続人の相続分に影響を与えることになりそうだからです。

例えば、相続人が配偶者と子1人の計2人で、被相続人と配偶者が居住していた自宅評価額2,500万円、その他金融資産等1,500万円だった場合、今までの法定相続分どおりにという考え方であれば、単純に各々2,000万円ずつ相続することになります。しかし、「配偶者居住権」が新設され自宅評価額が「配偶者居住権」として1,000万円とすると、(法定相続分2,000万円ずつという基本的相続分は変更しないので)配偶者は『配偶者居住権1,000万円+その金融資産等1,000万円』、子は『自宅の所有権1,500万円+その他金融資産等500万円』となり、子は自宅の所有権1,500円を相続したとしても親である配偶者が生存中は退去を要求できないので、一次相続での相続分は実質500万円ということになり、残りの1,500万円は二次相続まで棚上げ状態ということになります。難しい問題が残り得ます。

配偶者の生活を守るという観点では良い改正だと思いますが、全体を見た場合に、先述しましたように評価方法が客観的に誰が行っても同じような金額になるというような明確な方法でないと、場合によっては評価額等の争いにもなりかねません。

これ以外にも、婚姻期間20年以上であれば、配偶者が生前贈与などで取得した住居は「遺産とみなさない」との被相続人の意思表示があったと推定する規定が民法に加えられるようですが、『推定する』というのが微妙ですね。推定するというのは「反証」があった場合には覆る規定ですから、「反証探し?」というような騒動にならなければいいのですが。ただ、現時点では情報段階ですから、「みなす」という規定であれば「反証探し?」というような馬鹿な騒動は起きないでしょう。

そのほか、自筆証書遺言に添付する財産目録がパソコン作成でき、法務局が自筆証書遺言を保管する制度を創設するというような、遺言に関してある意味画期的な改正が行われるようです。

そして、今まで争いの元になりがちであってもどうにもならなかった『親の介護という寄与分の問題』に一石が投じられることになりそうです。

例えば長男もしくは二男の配偶者が被相続人である長男もしくは二男の親の介護をしていた場合に、一定の要件を満たせば相続人に金銭請求できるというものです。権利が発生したという点では一歩前進ですが、一定の要件次第では難しい問題を残すことになるかもしれません。また、この請求権も「遺留分減殺請求権」のような請求を受けた者が拒否できないような性質を持っていなければ、請求を受けた相続人が拒否をして終わってしまいます。

相続法の見直しは約40年ぶりと騒がれますが、その改正点にあるメリットと表面的には見えづらい孕んだリスクをしっかりと把握していかなければならないでしょう。

今後は今まで以上に細かな点まで把握・配慮した相続対策(準備)を行なっていかなければならないでしょう。

本当の意味での相続の専門家が求められることでしょう。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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