換価分割は単純ではない

前回、「遺産分割の方法と注意点」というコラムの中で分割方法の一つとして「換価分割」について簡単に触れました。

今回はその「換価分割」についてもう少し詳しくお話ししたいと思います。

「換価分割」とは文字どおり「遺産をお金に換えて分割する」という分割方法です。これは不動産や株などに適用される方法ですが、対象を不動産としてお話ししていきます。

換価分割という選択をするとき、換価分割はお金に換えて分割するのだから分かりやすくて良いね、と単純に考えてしまうと思わぬ落とし穴があります。

換価分割には不動産売却が伴いますので不動産売却のプロに相談をするのが当然ですが、そこで初めて素人である相続人たちは不動産売却について知ることになります。

第1に、売却時期が不明瞭であること。

第2に、自分たちが思っているほどの金額では売れないかもしれないこと。

第3に、不動産を現状のまま売却することが難しいかもしれない、その場合にはクリーニング代や修理代などの不動産を売るための(商品化するための)出費があるかもしれないこと。

第4に、換価分割時に共有登記をしていた場合には、共有者全員が売却契約時に出席しなければならないのが原則であること。(委任に関しては今回は省きます)

そして、以下二つは税務に係ることです。

第5に、売却額と取得費との関係で、売却益が出たときは譲渡所得が発生すること。

第6に、換価分割時に単独登記をしていた場合には、譲渡所得の問題だけではなく贈与税の問題もあること。

以上いくつか挙げてみましたが、これ以外にもケースバイケースで検討事項等が発生してくるかもしれません。

換価分割を行うことを決めた場合には、相続移転登記は共有登記もしくは単独登記という形をとることになりますが、ここで特に気をつけなければならないのが「単独登記」の場合です。

共有登記にすると前述のように共有者全員が売却契約時に顔を合わせなければなりませんので、集まるのが難しい場合などは「代表者を決めて代表者名で登記し売却手続きまで行う」という手法を採る事が有ります、これが「単独登記」という手法です。この手法には税務問題が関わってきます。譲渡所得の問題と贈与税の問題です。

不動産のプロはこの手法を勧めることが多いと思いますが、気をつけなければならないのは、不動産のプロはあくまでも不動産のプロであって税務に関してはプロではないということです。中には詳しい人もいて適切なアドバイスをしてくれることもあると思いますが、やはり税務のプロである「不動産に強い税理士」の判断が必要になってきます。特に、上記第5・第6に関しては不動産のプロでは危ういので、必ず「不動産に強い税理士」に確認する必要があります。

換価分割をして「単独登記」をしても、この後、換価したお金を純粋に配分したか、というお金の流れも重要になってきます。換価したお金を純粋に配分せずに他のことに使った痕跡があると「換価分割」を否認され、他の相続人に配分した金銭を贈与とみなされて贈与税がかかる可能性がありますし、「換価分割」を否認されると単独登記した者だけに譲渡所得税の問題も降りかかってきます。

最後にもう一つ、「換価分割」をする場合には『遺産分割協議書』の記載方法も重要になってきます。

「換価分割」は言葉としては簡単ですが、しっかりと成立させて税務上の問題もないようにするためにはやはり複数人のプロの力が必要になってきます。とはいってもバラバラではうまくいきません、その複数人のプロをまとめる者がいないと上手く完結しません。

頼れる専門家が必要です。

 

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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