遺言と事務委任契約

 

「遺言」は自分の亡き後自分が遺した財産をどのように処分するかを決めておくもので、自身の意思表示、相続争い防止などの一定の効果があるものです。

数年前までは、遺言なんて死を連想させるから縁起が悪いなどと言われ敬遠されていましたが、最近は積極的に遺言の作成を考える人が増えてきました。

「遺言」を遺すことで遺言者の遺産の帰属先が決まりやすくなり、遺された家族の負担も減少し、争い防止に繋がったりと大変有意義なものとなります。

「遺言」を遺すことが意義あることだということはご理解頂いていることと思いますが、「遺言」を遺すことで遺産に関しては問題解決に繋がるかもしれませんが、遺言者本人に関して、それ以外の問題解決には繋がらないことは明白です。

以下、3つのケースについて問題点と取り得る手段についてみていきたいと思います。

ケース1.遺言者が車椅子生活になり、或いは、施設に入居し、思うように外出できなくなってしまった。

遺言者が膝や腰を痛めたり、骨折をしたりして、自力歩行が難しくなり車椅子生活となり施設に入居するということは珍しいことではありません。この場合、遺言者が銀行などの金融機関に行って自分で預貯金を引き出すことができなくなってしまうことが問題となります。家族が代わりに行くというのがほとんどかと思いますが、場合によっては家族が行くことが問題となったり(使い込み等)、行ってくれる家族がいないということもあります。

このようなケースの場合の取り得る手段の一つとして「財産管理委任契約」があります。代理権を定めて受任者が委任者の財産を管理していくというものです。通常は任意後見契約とセットにして「移行型」という契約方法を採ります。

ケース2.遺言者が認知症になり、法律行為を含めた自分自身のことが一人でできなくなってしまった。

遺言者が認知症になってしまい、何の対策も採らないと詐欺などにより遺言で指定していた財産も騙し取られてしまうこともあり得ます。

遺言者が認知症になってしまった後の対策は「法定後見制度」を利用せざるを得ませんが、判断能力のあるうちであれば「任意後見契約」の結んでおくという方法もあります。この場合、任意後見契約を開始する時期を判断するために「見守り契約」というものを利用しておくと良いでしょう。

ケース3.家族や親族がいない独身者、或いは、親族はいるが縁遠い、などの場合の死後の後片付け。

通常は相続人が後片付けをしますが、相続人がいない場合などは困ってしまいます。仮に法定後見制度を利用して法定後見人がいたとしても、死亡と同時に後見業務は終了してしまいます。

任意後見人がいた場合でも死亡と同時に後見業務は終了してしまいます。ただ、任意後見人は遺言者がまだ判断能力があるうちに、自分の後見人を選んで契約しておくものですから、その際に任意後見業務終了後の死後の後片付けを依頼しておくようにすれば良いのです。それが「死後事務委任契約」です。

以上、簡単ですが「遺言」だけではカバーしきれないことについて「事務委任契約」というものでカバーしていくということをお話ししました。

「遺言」、「財産管理委任契約」、「見守り契約」、「任意後見契約」、「死後事務委任契約」をどのように組み合わせて利用していくかは専門家にご相談ください、上手く関連付けて設計できる専門家に。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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