相続はすっきり1番!複雑〇番?

相続というと「争い」や「相続税」といった負の印象が最初に出てきてしまうためか、「対策」ということが重要視されます。

世間では「相続対策」という名目で様々な手法が紹介されていますが、これらは概して専門家の目から見た「相続対策手法」がほとんどです。もちろん、一般の方は相続対策手法に関する知識や経験は浅いのですから、専門家から見た相続対策手法となるのは当たり前なのですが、手法の紹介内容を見ると「木を見て森を見ず」や「机上論」と言ってしまいそうなものも珍しくありません。

相続相談を受けていると「何でこんな事をしたのか、何のために?」と疑問に思うような「相続対策の結果」に出くわすこともあります。

例えば、「養子縁組」。おそらく相続税対策のために1人でも頭数を増やそうとしてのことだったのでしょうが、それにより法定相続分が狂い、遺産分割協議がややこしくなってしまったり、それに代襲相続などが加わると相続人関係図自体が複雑になってしまってグチャグチャなんてこともあり得ます。

相続税の基礎控除額が引き下げられたことで相続税の対象となる人が増えてしまったことは確かですが、控除額を増やすための安易な「養子縁組」は後々新たな問題を引き起こす事にもなりかねないので注意が必要です。

「相続対策」として「養子縁組」を考える場合には、本当に養子縁組が必要なのか、将来的に問題発生の可能性はないのか(これはかなり綿密な確認作業が必要です)、養子となる本人の気持ちはどうなのか、などしっかりと時間をかけて検討する必要があります。

その他に生命保険を利用する相続対策もありますが、遺産分割対策なのか相続税対策なのかはっきりさせておく必要があります。「相続対策に有効です」と勧められるままに加入するのは避けたいものです。万が一、「相続対策に、、、」と勧められたら遺産分割対策なのか相続税対策なのかをはっきりとさせてから要不要を判断して話を聞いて下さい。

最近流行り(?)なのが、「家族信託」です。専門家(?)の間では優れた手法というのか、かなり専門的に扱おうとしている人たちも増えているようです。専門の民間資格もあるぐらいで、これから相続相談に於いて手法の一つとして提案されることもあるかもしれません。確かに、この「家族信託」の法的性質は「上手く使いこなせば」利用価値は高いかもしれません。しかし、「上手く使いこなせば・・・」です。机上論では優れたものですが、実務に於いて個々の相続のケースに上手くあてはめて「信託を設計」できる専門家はどれくらいいるのでしょうか。リスクの想定とリスクヘッジを行なって設計するというのはかなり高度な技術が要求されるのではないかと思います。実際に、この手法に関しては懐疑的な専門家もいます。

「家族信託」の提案をされた場合には、良き吟味して決定して頂きたいと思います。

以上、養子縁組、生命保険、家族信託と3つの手法を取り上げてお話ししましたが、「相続対策」というと何か特別なことしなければならないという強迫観念めいた思考に陥りがちですが、「手法ありきではない」ということにご注意ください。

「相続対策」とは言い換えれば、『相続発生時に困らないように予め準備をしておく』ということです。

例えば、究極の相続対策として例示されることがあるのが、「自分の財産を全て自分で使い切ってしまう、後には遺さない」というものです。一番すっきりしていますが、流石に自分で全て使い切るというのは難しいもので、多少は遺ってしまいます。

次に、自分の考えを配偶者や子供達にしっかり伝えておき、自分の死後はそれを遂行してもらう。というのもすっきりしていますね。しかし、考え通りに遂行してもらえるか否かの問題も残ります。

こう考えていくとやはり何をしようにも少なからず問題点というのは存在する訳です。この多少の問題点を解決する手段として「手法」を取り入れる、というようにすれば「一番すっきり」により近づけるのではないかと思います。

「手法ありき」で「相続対策」を考えていくと「木を見て森を見ず」という状況が重なり、より複雑な相続関係を作り上げてしまう可能性があります。

できるだけ「すっきり」した相続関係を維持したまま「最低限の準備」を行うのが「相続発生時に困らないようにするための最善の相続準備」となるのではないでしょうか。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

相続士資格試験・資格認定講習のお知らせ

日本相続士協会が開催する各資格試験に合格された後に、日本相続士協会の認定会員として登録することで相続士資格者として認定されます。また、相続士上級資格は上 級資格認定講習の修了にて認定されます。