不平等相続を勧めるって…?どういうこと?

昨今のネット社会を反映して相続に関する情報提供もネット上で増えてきました。

このコラム自体まさしくそれですが、筆者もネット上で相続に関する記事を目にしたときにはなるべく目を通すようにしています。

なぜなら記事を書いているのが相続専門を謳っている人達ですから、どのような内容にまとめているのか少なからず興味があるからです。ただ残念ながら単なるコピペ?と思えるようなものも中にはあります。

今回はそれらのネット情報で気になったもの、もっと言えば気になった表現、について少しお話ししたいと思います。

相続で揉める原因の一つとして「権利の主張」があります。戦後の平等教育の普及の結果、男も女も、長男も二男も、長女も二女も、皆平等という意識が根付きました。実態の見えない平等という言葉だけが普及し、平等の線引きは個々人の頭の中、心の中、というのが現状ではないかと思います。

平等の線引きが個々人によって違うため、「相続は平等に」と言っても「平等という主張」をするだけで話がまとまらず揉め事に発展してしまう訳です。

そこで一般的な物差しとして「法定相続分」という概念が登場し、「法律で決まっている分は貰うよ、貰う権利があるよ」という「権利の主張」が始まります。

相続の現場では「平等・公平」というのは単なる机上論にしかならず、実態にそぐわない考え方であると言っても良いでしょう。

実態にそぐう考え方は、机上論の考え方からすれば「不平等・不公平」となるのでしょう。そこに目を付けて「不平等相続を勧める」などという表現がネット上に出ていたことがあります。

平等相続は実態にそぐわないから不平等相続を勧める、というのは理屈では分かります、しかし、やはりそれは机上論であって何かスッキリしないものを感じます。

相続の現場では平等や公平が実際に存在しないのは確かです、数字で表現すれば不平等であるのは明らかではあるけれど、共同相続人全員が納得した分割方法であればそれで遺産分割協議は円満終了となるのですから、わざわざ不平等相続と表現する必要はないと思います。

また、同族会社等の事業承継においては承継者と非承継者とでは数字的には不平等にならざるを得ないというケースもあります。その場合、事業をスムーズに承継することと共に、いかに両者のバランスをとる努力をするかが焦点となります。

不平等相続と表現した方は、場合によっては(事業承継など)敢えてその方法をとるべし、というつもりで表現したのかもしれませんが、言葉遊びと捉えられかねない、相続の現場では使いたくない表現ではないでしょうか。

相続に直面した共同相続人は普段より自身のアンテナを張って敏感になっていることが多いのも事実です。相続の専門家としてはそういった共同相続人に相対するときには言葉を選ぶという”配慮”も必要ではないかと思います。

かく言う筆者も「言葉を選ぶという”配慮”」に関してはまだまだと反省することが多々ある毎日です。

相続の現場は「対人(たいひと)」です。ものを売り買いするのとは違い、人と相対する、もっと言えば「人の感情と相対する」のが相続の専門家の立ち位置です。知識やノウハウの習得だけではなく、「人の感情と相対する」ためにも日々精進していかなければならないと思います。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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