一部分割の利用には注意

相続開始後の最大の山場である遺産分割は、被相続人が遺言で分割の禁止(相続開始の時から5年以内)を指定した場合を除き、いつでも、共同相続人間の協議で分割をすることができる、と共同相続人間の協議による分割について以前より相続法に定められています。

一般に「協議分割」というもので、共同相続人全員の話し合いによってどのような分割方法にするか決めることができるというものです。(ただし、被相続人作成の遺言があった場合には遺言が優先します。)

この協議分割のみならず遺産の分割は「遺産の全てを1回で分割することが原則である」という考え方が根底にありますので、一般的には遺産分割協議は全ての遺産を1度の分割協議において帰属先(相続するのは誰か)を決める作業となります。

しかし、遺産の一部だけを先に決めて残りをまた改めて決めるというように、共同相続人の合意による、部分的な分割も行われているケースも存在します。これについては相続法には明確な規定が存在しませんでしたが、今回の相続法の改正で「一部分割に関する規定」が盛り込まれるようになりました(2019.07.01施行)。

現行法(2019.06.30まで)の規定では、前述したように「被相続人が遺言で分割の禁止(相続開始の時から5年以内)を指定した場合を除き、いつでも、共同相続人間の協議で遺産を分割をすることができる。また、協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは遺産の分割を家庭裁判所に請求することができる。」というものですが、改正相続法では「いつでも、共同相続人間の協議で遺産の全部又は一部の分割をすることができる」と「遺産の全部又一部」いう文言を入れることで、「一部分割」の明文規定とし、例外的な方法であった一部分割を利用しやすいものへと変更しました。

しかし、その改正法にも「縛り」ともいえる規定が設けられました。それは「遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその分割については、この限りでない」という規定です。要は、一部分割の結果、共同相続人の1人又は数人の利益を害するようであれば、遺産全体についての適正な(公平的)分割に繋がらないので、その一部分割は相応ではないと判断して行われるべきではない、ということです。

このような「縛り」ともいえるような規定があっても、共同相続人間に遺産分割協議においては不完全な法律知識として「一部分割の相続法における明文規定」を持ち出して、遺産の一部だけを分割協議するというような主張をする相続人が出てくるかもしれません、また、机上論だけを振り回す「エセ専門家」によって一部分割の方法論をアドバイスされる相続人もいるかもしれません。

相続法に「一部分割」が明文規定されたので利用しやすくなったということは確かにあるかもしれませんが、実務上、これは限定的に利用すべきであり、無闇矢鱈と利用すべきものではないと思います。

例えば、ある財産について遺産としての特定が困難なために、それだけが原因で、遺産分割協議が遅れている場合などで、当該財産が遺産分割全体に及ぼす影響がほとんどなく、当該財産が遺産であった場合に誰が相続するのか、或いは、当該財産だけ後日改めて協議するが先に行われる遺産分割と完全に切り離して(互いに影響を与えない)旨の合意ができた場合、などは全ての遺産を1度にという原則から外れて一部分割を行なっても良いかもしれません。

一部分割を行なったが故に、遺産分割協議が絡み合った紐が解けなくなってしまう様な難しい状態にならないように、慎重に判断していかなければなりません。

遺産の一部分割は方法論の一つとして捉え、安易な一部分割は避け、一部分割を行うときには慎重に、且つ、綿密に、目指すは円満な遺産分割です。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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