遺留分制度が少し変わります=遺留分侵害額請求権=

民法改正により2019年7月1日から遺留分制度は少し変わります。今回は「遺留分侵害額請求権」についてお話ししたいと思いますが、その前に簡単に「遺留分制度」について、どのような制度なのか基本事項を押さえておきたいと思います。

遺留分制度は、被相続人の財産処分の自由と相続人の相続権の保護(相続人の生活保障と遺産の潜在的な持分の清算)を調整するたの制度として定められたものです。

遺留分制度で中心となるものが「遺留分」という「権利」です。一般的には「最低限保護されている(侵すことのできない)相続人の相続分」などと説明されていますが、もう少しいいますと、「相続人の生活保障と遺産の潜在的な持分の清算という性質を有するがために、自己の財産を自由に処分することができる被相続人であっても侵害することができない、相続人の権利」となります。

この「遺留分」を有する者を「遺留分権利者」といって、被相続人の配偶者、被相続人の直系卑属、被相続人の直系尊属が遺留分権利者となりますが、被相続人の兄弟姉妹、遺留分放棄した相続人の代襲者、相続欠格者、相続廃除者、相続放棄者は遺留分権利者となりません。

そして、この遺留分権利者が相続開始時に遺言や贈与により自分の遺留分が侵害されていることを知ったとき、侵害されている分の相続分を取り戻す請求をすることが出来ます。これを「遺留分減殺請求権」といいます。「遺留分減殺請求権」が行使されると、減殺請求の対象である目的財産について、遺留分を限度として、遺留分権利者に帰属するという物件的効果が生じ、目的財産が受遺者等と遺留分権利者との共有関係になるという権利関係が複雑な状態を招くことになります(2019年6月時の現民法)。その点、判例において、遺留分減殺請求に対して、物の返還ではなく、金銭の支払いという方法が認められてきました。

このような遺留分の減殺請求に係る制度について今回の民法改正で見直しが行われ、判例において認められてきた「金銭の支払い」という方法に着目し、遺留分権利者は「遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することできる(改正民法1046条1項)」となりました。

これにより、今までは減殺請求されると侵害する遺留分を限度として遺贈等が失効して目的財産が共有状態になるという物件的効果が生じていましたが、減殺の対象となる遺贈等は失効せず、遺留分を侵害する程度で金銭債権の発生という効果が生じることになりました。この改正に伴い、今までの「遺留分減殺請求権」は「遺留分侵害額請求権」という名称に変更されました(2019年7月1日施行)。

最後に、間違えて認識されやすい点を一つ、「遺留分侵害額請求権」の行使は裁判所にする必要はありません。揉めてもいないのに最初から、「遺留分侵害額請求」を裁判所に申し立てましょう、などという専門家もどきがいた場合にはご注意ください。

「遺留分侵害額請求権」は、対象となる受遺者・受贈者に「請求する旨の意思表示」をするだけで成立し、必ずしも裁判上の請求をする必要はありません。これは最高裁により判示されています。ただ、意思表示だけでは証拠が残らず問題を複雑にしてしまいますので、権利の時効を考慮して、実務上は証拠が残る形で行います。

具体的な方法については真の専門家にご相談ください。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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