民法改正は「親の介護という争族の原因」の救世主となるか?

相続が争いとなる原因は「遺産の分け方」にあります。遺産の分け方が決まらないから「言い合い」となり「争い」へと発展していくわけです。

「遺産の分け方」について「言い合い」となる原因は様々なものがあると思いますが、原因として挙がる確率が高いのが「親の介護」です。

介護をした者としない者、主張ははっきりと分かれます。介護をした者は「介護の苦労分」を相続分として要求し、介護をしない者は「平等」を建前に自分に都合のいい「分割」を要求します。この両者の話し合いはなかなか交わらないのが常です、なぜなら介護をしない者は介護をした者の苦労は分からないからです。

戦前の「家督相続」では「長男が家を継ぐ」という大原則から親の面倒を看るのは長男であり、長男のお嫁さんでした。戦後、「平等」教育の普及により「長男も二男も、皆平等」という平等意識が芽生え普及していきましたが、相続の世界では「家督相続」の意識を引きずりながらも「平等意識」による「平等相続」が台頭していくことで、『ねじれ相続(筆者の造語です)』の世界を作り出してしまいました。

家督相続を引きずった考えからくる「家を継ぐのは長男であるから親の面倒を看るのは長男や長男のお嫁さん」、しかし、平等相続の考えからくる「遺産は共同相続人全員が平等に取得する(家を継ぐのは長男と限らない)」、という『ねじれ相続』の中で、『寄与分』という「介護をしていない者からは認めてもらいづらい権利」が問題の中心となってきました。

寄与者の寄与分は「共同相続人の協議で定める」というのが民法の規定であり、寄与分を考慮するためのスタートとなります。

介護をした者の苦労を介護をしない者は理解し難いので、苦労した分を寄与分として少し多めに遺産が欲しいという主張を、皆平等という主張であっさり切り捨ててしまえば、介護をした者は納得いかないのは当然のことかもしれません。

更に話を複雑にしてしまうのが、介護をした者が「長男のお嫁さん」である場合です。相続人ではないのだから「寄与分の主張」そのものが認められない、として話し合いの場では切り捨てられてしまうこともあります。

「長男のお嫁さん」などの寄与分の権利を有さない人であっても「介護の当事者」となることはよくあることで、『ねじれ相続』の中では「陰で泣く人」にもなっていたのですが、このような人たちを救うため(?)に今回の民法の改正では「特別の寄与(相続人以外の者の貢献の考慮)」という制度が新設されました。

被相続人に対して「特別の寄与をした被相続人の親族」を「特別寄与者」として、「寄与に応じた額の金銭」を「特別寄与料」として相続人に対して請求できる権利を与えるというものです。

これにより、今までは相続人ではないから「寄与分」の主張は認められないとされてきた者が、相続人に対して「金銭的請求」が可能となった訳です。

果たして、これで問題解決へ一歩進んだのでしょうか。確かに、介護により苦労した者に権利を付与することで「権利行使の機会」を与えることにはなりましたが、「争い回避」に繋がるとは言えないのではないかと思います。

そもそも以前より存在する「寄与分」を考慮する上での「被相続人の財産の維持又は増加についての『特別の寄与』」の解釈の問題(行為そのものが「特別の寄与」に該当するか否か)は、「直系血族間の扶養義務等」との線引きの難しさからクリアにはなっていないので、依然、問題として残ります。

また、「特別寄与者の特別寄与料の請求」という相続人以外の者の「相続への関与」が加わることになりますので、今まで以上に複雑な「争族」問題に発展しないとも限りません。

我々相続の専門家は、民法の改正内容を実務的に理解し、メリット部分は上手く活かしながらも、同時に、デメリットも予測しながら相続案件に対応していく必要があります。

表と裏の両方を見る目を養わなければなりません。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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