おひとりさま信託に関する考察

相続や終活を考える際、相続人あるいは家族がいることを前提に様々な事項について検討することが一般的ですが、相続人あるいは家族がいない場合には検討事項や方向性が全く変わってくるのは当然のことです。

数年前までは相続人のいない独身者等は、自身の相続のことを含め死後のことなどは自分には関係ないというスタンスが大半を占めていました。

しかし、昨今の「相続」や「終活」に関する情報を様々なメディアが発信することで、「おひとり様」というキーワードにより自分も考えておかなければならないという意識が芽生え始めたことと、インターネットの普及による自分自身のデジタル情報の多様化等放置しておけないものが増えてきたことにより、今まで自分には関係ないと思っていた人たちも少しずつですが、アクションを起こすようになってきたようです。

いわゆる「おひとり様」の場合、自分の死後、財産をどうするのかという問題もありますが、葬儀やお墓の問題、生活用品の片付けの問題(遺品整理)、病院や施設の清算の問題、デジタル情報の消去の問題など、死後の問題としても多数挙げられますが、生前においても老後の施設入居時の保証問題や認知症リスクの問題等、個人の状況によって様々な問題があります。

関係ない、知らない、では済まされない問題であって、自分が老いてから苦労することが目に見えるものもあります。

このような問題に対して元気なうちに準備しておくことが「エンディングノート」という言葉で代表される「終活」といわれる行動です。

「終活」がジワジワと浸透していく中で、昨年12月にM信託銀行が、死亡後の必要な事務処理を一括して行う「おひとりさま信託」なるものを発売しました。

エンディングノートを使って必要事項を記録し、定期的にショートメールにより安否確認をして、本人死亡後に死後事務を行い、費用清算後に残金を指定された権利者に返金するという仕組みのようです。

基本的なスキームとしては、「見守り契約+死後事務委任契約」という感じでしょうか。

死後事務委任契約の締結と実務はM信託銀行系列の一般社団法人が行うようです。

法人が契約相手ということでの安心感はあるかもしれません。また、個人の人間性よりも社会的な看板を信頼する人にとっては魅力ある商品ともいえるかもしれません。

ただ気になるのは、商品として定型化されている(オプション対応はあるようですが)と思いますので、柔軟性に欠ける可能性もあるかもしれないということです。

 一般的な個人対個人(個人対法人で対応しているケースもありますが今回は個人対個人の契約パターンとしてお話しします)の契約と少しだけ比較して考えてみましょう。個人対個人の契約には契約相手が一般の方であっても、契約等の実務には専門家が関与することを前提とします。

・安否確認について

「おひとりさま信託」の安否確認の手段とされているショートメールへの対応は、年齢が高くなればなるほど難しくなってくることは確実です、その場合はどのような対応になるのでしょうか。

個人対個人の「見守り契約」の安否確認は電話による通話確認と訪問確認が契約条項になるのが普通ですから、その点では個人対個人の契約の方が細かな対応ができそうです。

・契約の継続性(リスク回避)

個人対個人の契約の場合には契約相手の個人に万が一のことがあったら契約の続行が難しくなるというリスクを持ち合わせていますが、「おひとりさま信託」は契約相手が法人なのでそのようなリスクは回避できます。

・費用の問題

「おひとりさま信託」は契約時に300万円以上の申込金が必要で、加えて信託報酬が新規設定時に33,000円(税込)と年2回の運用報酬、終了時報酬があり、死後事務委任契約報酬は別途必要(一般社団法人への支払い)なようです。

個人対個人の契約でも契約内容によって「預託金」や「報酬」が必要になりますが、内容によって金額を決めることができますので、内容と金額のバランスを取りながら契約内容を見直して詰めていくという作業ができ、個人の状況によって金銭的にも柔軟な対応が可能になります。

・対応(柔軟性)の問題

「おひとりさま信託」の場合には、あくまでも個人的な見解ですが、マニュアルによる均一的(標準的)な対応が考えられますので、どこまで個人の状況に応じた柔軟な対応ができるかが疑問です、オプションという選択肢があるにせよ、マニュアル・定型商品という型にはめた契約内容にならなければ良いのですが。

個人対個人の場合には、前述しているように個人の状況に応じた柔軟な対応が可能となります。「小回りが効く」というやつですね。

以上、簡単ですが比較して考えてみました。

「おひとりさま信託」は、まだ取扱店舗も少なくこれからという感じですが、どのような展開になっていくのか、注目しておいても良いかもしれません。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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