保証債務の相続

 相続における遺産の承継は、プラスの財産のみならずマイナスの財産もあります。

マイナスの財産とは「債務」のことです。

債務(マイナス財産)というと思い浮かべるのは「借金」だと思いますが、それ以外にも、なかなか見えづらい債務とでもいいましょうか、「保証債務」というものがあります。

 保証債務とは、主債務者が債務を履行しない場合に、保証人が主債務者に代わって債務を履行するという保証人の債務をいいます。

この「保証債務」に関しては、保証債務の種類等によって、相続における承継の扱いが変わってきます。

 誰かの身元を保証する「身元保証」というものがあります、例えば、親戚等が就職する際に身元保証人となるような場合です。この場合に、身元保証人となった者は「身元保証債務」を負います。この「身元保証債務」を相続人が承継するか否かについて、身元保証人の地位は、被相続人の一身に専属する地位であるから、特段の事情がない限り、身元保証人の死亡にとって消滅し、相続人に承継されないとされています。しかし、身元保証人の生前(相続開始前)に具体的に発生した損害賠償債務に関しては、通常の債務と同様に、相続人に承継されることになります。

 事業を行なっている場合などに問題となるものに「根保証」があります。これは、継続的な取引関係から生じる不特定多数の債務を保証するものです。例えば、会社経営をしている人(代表者等)が、会社名義で金融機関と金銭貸借等の取引を始める際に、個人保証をすることになりますが、そのほとんどが「根保証」ということになります。

 限度額及び期間の定めのない根保証に関しては、契約当事者間の人的信用関係に基づくものであり、保証人の責任の範囲も広範囲となるため、このような保証人の地位は、特段の事情のない限り、相続人には承継されないとされています。しかし、保証人である被相続人の相続開始前に具体的に発生した債務に関しては、身元保証債務同様、相続人に承継されることになります。

 また、限度額及び期間の定めのある根保証に関しては、相続人が債務の範囲を予測するのが可能ということもあり、相続人に承継されるとされています。

 そして、身元保証や根保証とは異なるいわゆる普通の保証債務は、判例や通説においても相続人に承継されるものとされています。

 保証債務に関しては(特に根保証に関しては)、専門家でない限り判断や対応が難しく、相続時に「保証債務」を発見した場合には早い段階で法律の専門家に相談した方が良いケースもありますので、分からないからと後回しにせずに、早めの行動が肝心です。

 保証人となった本人からしっかりと話を聞いていれば良いのですが、そうでない場合には相続財産調査のときに、マイナス財産の有無を契約書の類を漏らさずに確認することが必要です。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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