相続対策としての普通養子縁組に関する考察

相続対策として「養子縁組」を考えているのだけれど、、、という相談を受けることは珍しくありません。方法論として考えれば、上手くハマれば大変有効な手段となります。

相続対策として考える場合、相続税対策なのか遺産分割対策なのかによって考える方向性も変わってきます。

相続税対策として考える場合には、法定相続人の頭数を増やし基礎控除額を増額させることが目的ということになりますが、法定相続人の数に含める養子のカウント規定(被相続人に実子がいるとき1人、実子がいないとき2人)も把握した上で、遺産分割に与える影響等も考慮しなければなりません。

相続税対策としての養子縁組であり得るリスクの一つとして、法定相続人の数が増えることによる遺産分割の問題です。ただでさえ揉め事になりやすい遺産分割が、法定相続人の頭数が増えることによって更に揉めごとに発展する可能性が高くなります。

遺産分割対策として考える場合には、被相続人に子供がいないなどのケースが多いのですが、養子縁組をする場合と遺言による遺贈との場合などをよく比較検討してメリット・デメリットを把握しなければなりません。

被相続人に子供がいないなどの場合に採られる遺産分割対策としての養子縁組で、あり得るリスクの一つとして、養子縁組が成立すると養子は養親の嫡出子という立場になります(民法第809条:養子は、縁組の日から、養親の嫡出子の身分を取得する。)から、仮にそれまで嫡出子が1人もいなく、下位順位の法定相続人がいた場合には、嫡出子という上位の法定相続人が養子縁組によって現れたときに、下位順位の法定相続人から養子縁組に対する疑念等を抱かれ問題に発展する可能性を秘めています。

養子縁組は養親となる者と養子となる者とが互いに縁組の意思を持ち、届出をすることによって成立します。もちろん、養親となる者が成年に達していること(民法第792条)、養子となるものが尊属又は年長者ではないこと(民法第793条)などの基本的な要件はクリアしなければなりませんが、手続面だけを見れば比較的簡単なもののように思えます。

しかし、養子となる者は生身の人間です。養子となることへの抵抗はいかなるものか、全く無い場合もあるでしょうし、なんとなく気持ちの上でしこりがあるようなという場合もあるでしょう。養子縁組という一見簡単に見える方法論ですが、養子となる者の「心の問題」というものを忘れてはいけないと思います。

また、養子縁組を行うことによって影響を受けるその他の相続人の感情問題も忘れてはいけないことでしょう。

子供のために養子縁組をする特別養子と違って、相続対策というある意味利害関係の存在する事柄のために行う養子縁組の場合には、養子となる者の「心の問題」や相続特有の「遺産に関わる問題」など、養子縁組手続という比較的簡単に見えるものの裏側にある問題もしっかりと考えた上で決断していかなければならないと思います。方法論ありきではいけません。

相続税対策にしろ遺産分割対策にしろ、養子となる者の「心の問題」をカバーした上で、考えられる問題点を回避できるような手段を講じて行く必要があります。

相続対策として養子縁組を考える場合には、安易には考えずに専門家にご相談ください、裏側の問題もしっかり見る専門家に。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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