相続人不存在と相続財産
相続は人の死亡によって開始し、被相続人の財産に属する一切の権利義務は包括的に、その相続人に法律上当然に承継されますので、相続人は相続財産を管理し、相続債権者等に対して弁済する義務を負います。
しかし、相続人がいるかどうか不明の場合には、相続財産の管理が期待できないので、相続財産の帰属先を暫定的に決めて、管理・清算させる必要があります。更に、相続人を捜索しても誰もいなかった場合には、相続財産の最終的な帰属先を決めなければなりません。
民法では、相続人のあることが明らかでないときは、「相続人不存在」の手続として、相続財産は法人とし、家庭裁判所に相続財産管理人を選任させ、選任された相続財産管理人に相続人の捜索と相続財産の管理・清算手続きを行なわせます。
ここでいう「相続人のあることが明らかでないとき」とは、戸籍上の相続人がいないことが明らかな場合はもちろんのこと、戸籍上の相続人がいても、その全員が相続欠格や廃除によって相続権を剥奪されたり自ら相続放棄をした場合も含まれます。
また、判例では、戸籍上の相続人がいない場合でも、相続財産全部の包括受遺者がいるときは、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有するので、「相続人のあることが明らかでないとき」にあたらないとされています。
戸籍上の相続人がいるのであれば、たとえその者の行方や生死が不明であっても、相続人不存在の手続きを行なうのではなく、不在者・失踪者として不在者財産管理制度や失効宣告制度の利用となります。
相続財産管理人が選任された後、どのような手続きに進むかというと、家庭裁判所により相続財産管理人選任の公告がなされ、公告から2ヶ月以内に相続人の存在が明らかにならない場合には、相続財産管理人による相続債権者及び受遺者に対して2ヶ月以上の期間を設定して、期間内に請求申出をすべき旨を公告します。この期間満了後に相続財産は清算され、なおも相続人の存在が明らかでないときは相続財産管理人の請求により、6ヶ月以上の期間を定めて、相続人があるならば期間内に権利を主張すべき旨の公告を行ないます。この期間内に相続人としての権利を主張する者がないときは、相続人の不存在が最終的に確定し、相続財産法人及び国庫に対する関係で権利を失います。したがって、後に述べます「特別縁故者への財産分与」が行なわれた後なお残余財産があった場合でも、当該相続人が当該残余財産について相続権を主張することはできないということになります。
因みに、上記手続期間内に相続人の存在が判明し相続を承認した場合は、相続財産は相続開始時から相続人に帰属していたことになりますので、相続財産法人は相続開始時に遡って消滅します(民法955条、相続財産法人の不成立)が、相続財産管理人が相続人不明の間に行なった権限内の行為は、相続人のために行なった管理行為となるので、当然有効となります(民法955条、相続財産法人の不成立、但書)。そして、相続財産管理人の代理権は、相続人が相続の承認をしたときに消滅するということになります。
相続人の不存在が確定した場合に行われる清算手続後、残った相続財産があればその帰属先を決めなければなりません。
まずは、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者がいれば、その者の請求に基づき、家庭裁判所の審判により、相続財産の全部または一部が分与されます。
被相続人と特別の縁故があった者がいる場合には、相続財産を国庫に帰属させるよりその者に分与させたほうが、被相続人の意思に合理的に合致すると思われるからです。
特別縁故者からの相続財産に対する分与請求がない場合、特別縁故者からの分与請求が家庭裁判所で認められなかった場合、及び、特別縁故者に対する相続財産の分与がなされた後もまだ残余財産がある場合には、その残余財産は国庫に帰属することになり、相続財産法人は消滅し、相続財産管理人の代理権も消滅し、相続人不存在に関する相続財産の全ての手続きは終了します。
ときに、相続人がいないと財産は国に取られてしまう、ということを言う人がいますが、実際にはすぐに国に帰属するわけではなく、相続人が全くいなくても特別縁故者に分与させることも可能となります。
事実婚や再婚・再々婚など家族環境が複雑化し易い昨今においては、直系の相続人がいなくても事実上の家族となり得る者やそれに近い関係にある者などがいることも珍しくありません。
そのようなときに問題となり易いのが相続の問題です。
遺言によって指定を行なっていればいいのですが、遺言を作成していない、或いは、遺言作成が間に合わなかったなどのケースでは「特別縁故者」の制度があることを知っておくと一助となるでしょう。
また、相続放棄によって相続権を有するものが全くいなくなった場合も「相続人のあることが明らかでないとき」に該当しますので、今まで述べたような手続きが必要になってきますが、相続財産の承継を拒否し自ら相続放棄をした者は、相続財産の管理責任や相続財産管理人の選任手続き等の問題も絡んできます。複数の事項が関連してきますので、総合的な判断が必要になることも頭の隅に入れておく必要があるでしょう。
このページのコンテンツを書いた相続士
- 行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所
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