相続の視点から考える事実婚

前回シニア世代の第二の人生と相続問題とテーマでお話ししましたが、これは配偶者となった者に相続権が発生することにより「相続問題」が起こり得るということでした。

では、相続権が発生しない事実婚ではどうでしょうか。

事実婚とは、「婚姻事実関係一般を意味する概念であり、通常、日本では法律婚に対する概念として用いられている(Wikipediaより)」ということですが、簡単に言うと、夫婦ではあるけれど婚姻届を出していない状態にある人たちということです。

事実婚では本人たちには様々なメリットがあることと思いますが、相続の観点からみた場合デメリットの代表ともいえるのが「互いに相続権がない」ということでしょう。この件について、遺言の活用を勧める専門家がほとんどだと思います。確かに法律的対抗手段は遺言の作成でしょう。しかし、事実婚の相手以外に相続権を有する者がいた場合はどうなるでしょうか。ケースバイケースで様々な問題が考えられます。確かに事実婚の相手の生活を守るというのも重要なことです。だからといって「安易に」遺言を作成して遺贈することにしてはいけない場合もあります。

遺産に目を向けた場合に考えなければならないのが遺産の性質です。例えば、親から承継した財産なのか、自分でゼロから構築した財産なのか、事実婚の相手とともに作り上げたものなのか、ということです。こういった点を考えなければ、その財産に関係する人が他にいた場合には問題発生は必至です。

例えば、親から承継した財産を事実婚の相手に全て遺贈する旨遺言を遺した場合に、その財産に関係する他の者(兄弟姉妹等)がいたとしたら、その人はどう思うでしょうか。兄弟姉妹には遺留分はありませんから遺留分の請求はありませんが、遺言無効の訴え等で揉める可能性はあります。但し、この場合、遺贈指定された者が他の者たちとどのような関係を築いてきたか(遺贈を指定された人がどのような立ち位置にいたか)によっても変わってくると思います。

例えば、入籍にしていないにも関わらず親の面倒を献身的に看てくれたなど親兄弟姉妹と密接な関係にあった場合と、親の面倒を看るどころか親兄弟姉妹と距離をとってしまいほとんど関係を持たなかった場合とでは、全く違う結果になることと思います。

次に相続人という点に目を向けた場合について考えてみたいと思います。

事実婚の相手方は双方に相続権がないのは、当人同士は承知のはずですが、子供はどうでしょうか。子供については連れ子がいた場合、新たな命が誕生した場合など様々なケースがありますので、子供同士で不平不満の火種にならないように当人たちのケースについてしっかりと検討しなければならないでしょう。

以上、事実婚と相続に関して簡単に述べてきましたが、現在の日本は法律に基づいて事が行われていますから、それに反する形をとるとどうしてもどこかにしわ寄せが来てしまいます。そのしわ寄せが当人たちだけで賄えるものならいいのでしょうが、周りにも影響を及ぼすものである場合には、やはり考えなければいけないのではないでしょうか。『けじめ』を。

当人たちの居心地のいい場所を作りたいのはわかりますし、当然の事だと思います。また、当 人たちだけが負の作用をかぶり、それを良しとしているのであれば、それで良いと思います。しかし、それが周囲にも影響を及ぼし、周囲の人たちにも負の作用が及ぶのであれば、思わしくない事態となりますので、考え直さなければならないのかもしれません。

事実婚を否定するつもりはありません。そうせざるを得ない人たちも多くいると思います、繰り返しになりますが、周囲の人たちに負の作用が及ばないような気遣い・心配り、そして揉め事ならないような準備対策、あるいは、別の選択(法律婚への移行)も必要ではないかと思います。

 自分たちを取り巻く(関係する)環境・状況等をよくみて、考えて、俯瞰的に判断していかなければならないのではないかと思います。

 

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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