農地・生産緑地と2022年問題? その1
「生産緑地」に「2022年問題」が起きるのではないかと言われているのをご存知でしょうか。今回は生産緑地とはどのような土地なのか、またどのような問題が起きると考えられているのか、生産緑地の法改正の経緯や背景などと合わせてお伝えします。
生産緑地とは?
生産緑地法では生産緑地制度を「良好な都市環境を確保するため、農林漁業との調整を図りつつ、都市部に残存する農地の計画的な保全を図る」制度としています。農地は特に都市部では環境保全のほか災害時の避難場所としての活用などの役割を果たしています。
1991年に改正された生産緑地法では、市街化区域内の農地を「保全する農地」と「宅地化する農地」に区分され、保全する農地については次の要件に該当すれば「生産緑地地区」に指定されることになりました。
1.公共施設等の敷地に供する用地として適しているもの
2.面積が500平米以上であること
3.農業の継続が可能な条件を備えているもの
生産緑地法
(生産緑地地区に関する都市計画)
第3条 市街化区域(都市計画法(昭和43年法律第100号)第7条第1項の規定による市街化区域をいう。)内にある農地等で、次に掲げる条件に該当する一団のものの区域については、都市計画に生産緑地地区を定めることができる。
1.公害又は災害の防止、農林漁業と調和した都市環境の保全等良好な生活環境の確保に相当の効用があり、かつ、公共施設等の敷地の用に供する土地として適しているものであること。
2.500平米以上の規模の区域であること。
3.用排水その他の状況を勘案して農林漁業の継続が可能な条件を備えていると認められるものであること。
1991年の「生産緑地法」の改正内容
1991年に改正された生産緑地法では、生産緑地地区に指定されると、農地として管理することを義務付けられるほか、「営農(農業を営むこと)」に関係ない建物の新築・増築や宅地の造成ができなくなりました。一方で、固定資産税は農地として課税されるため負担額は少なく、税額は10a(1,000平米)あたり数千円程度となっています。また相続税についても納税が猶予される制度があります。
これは相続をした農地(生産緑地)の評価額が高くなり相続税が課税されると、場合によっては農地を手放さなくてはならなくなり、農業の継続ができなくなってしまうことも考えられ、このようなことを防ぐために法改正が行われました。
このように「保全する農地」は生産緑地として引き続き「営農」が可能となりましたが、その他の農地については「宅地化する農地」として宅地化がすすめられました。この改正が行われたのはバブルの時期で、市街化区域の農地については地価高騰による税負担の公平性を求める声が上がるほか、供給する宅地の量を増やすという目的もあり、農地は一部(生産緑地)を除いては「宅地化すべきもの」として位置づけられていました。
不動産の2022年問題は起きるのか?
先にお伝えしたとおり、生産緑地地区に指定された場合には営農が前提となり、それ以外の用途で農地を活用することはできません。また、固定資産税・相続税負担が少ないとはいえ、農業だけでは収益を確保できない場合もあり、農地を宅地に転用(「農地転用」と言います)して活用するケースも増えてきました。
また生産緑地には次の3つの要件に該当する場合、その所有者が各自治体に対して買取を申し出ることができ、各自治体は特段の事情が無い限り、時価で買取をしなければならないという決まりがあります(生産緑地法第10条)。
1.生産緑地地区の指定日から30年経過したとき
2.主たる従業者が死亡したとき
3.主たる従業者がなんらかの故障によって農業に従事することが困難になったとき
1991年に改正された生産緑地法は1992年に施行されましたが、2022年以降には生産緑地地区の指定から30年経過した農地が続出することになります。その農地から一斉に買取の申し出があった場合、現実的には各自治体は財政的な理由等により買取が困難になることも考えられます。その場合、自治体は他の農業従事者に取得をあっせんすることが求められていますが、取得希望者が現れない場合には、生産緑地としての義務や制限が解除されることになります。
500平米以上の大きな土地は個人が購入するケースは考えられず、不動産業者・開発業者が買い取り、多くの宅地が市場に出回ることになり、結果、不動産が供給過多となり不動産価格が大幅に下落するのではないか、というのが不動産における「2022年問題」と言われているものです。
このような問題を回避するために、2017年2月に生産緑地法の一部改正を盛り込んだ「都市緑地法等の一部を改正する法律案」が閣議決定され2017年6月と2018年4月に施行されました。各自治体はこの法改正を受けて条例を定め、改正内容に準拠して生産緑地を管理・保全等を行っていくことになりました。
(次回へ続く)
このページのコンテンツを書いた相続士
- 相続士、AFP
1971年東京都生まれ。FP事務所FP EYE代表。NPO法人日本相続士協会理事・相続士・AFP。設計事務所勤務を経て、2005年にFPとして独立。これまでコンサルティングを通じて約1,000世帯の家庭と関わる。
相続税評価額算出のための土地評価・現況調査・測量や、遺産分割対策、生命保険の活用等、専門家とチームを組みクライアントへ相続対策のアドバイスを行っている。設計事務所勤務の経験を活かし土地評価のための図面作成も手掛ける。
また、住宅購入時の物件選びやローン計画・保険の見直し・資産形成等、各家庭に合ったライフプランの作成や資金計画のサポートを行っている。個人・法人顧客のコンサルティングを行うほか、セミナー講師・執筆等も行う実務家FPとして活動中。
FP EYE 澤田朗FP事務所
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