後見制度利用の申立後の手続き

成年後見制度には「法定後見」と「任意後見」があり、認知症になってしまった後に利用できるのは法定後見(成年後見等)です。これにより、「成年後見人等」が日常生活のサポートや財産管理などを行えるようになり、相続時には認知症等になってしまった人(以下「本人」)の代理人となり遺産分割協議などが行えます。

前回は、成年後見等の申立をする時の申立書類等を提出する前に、決めておく必要がある重要事項についてお伝えしましたが、今回は申立書類等の提出後に行われる、審理・審判の内容についてお伝えします。

申立後に行われるさまざまな手続き

申立後は、本人・申立人・後見人等候補者・親族に対して、審査や面接など様々な手続きが行われます。その内容をもとに審判が下され、後見等の種類や後見人が決まります。手続きの内容は次のとおりです。

(1)書類の審査と面接

・裁判所による書類の審査

・面接(ヒアリング)
対申立人:本人の状態や、申立に至った事情など
対後見人等の候補者:欠格事由の有無や適格性に関する事情、後見等の事務に関する方針など

(2)親族への意向照会(必須ではない)

・本人の親族に対して、書面などで申立の概要や、後見人等候補者に関する意向照会

(3)鑑定

・本人も判断能力の程度を医学的に判定
・裁判所が医師に鑑定を依頼

(4)本人調査

・申立の内容などについて本人から直接意見をヒアリング

これらの手続きが1~2ヵ月かけて行われますが、調査などの内容によってはそれ以上の期間がかかるケースもあります。

成年後見人等の選任

面接や鑑定などが終わった後に後見等の開始の審判が行われ、最適と思われる成年後見人等が選任されます。

審判の内容は本人・申立人・成年後見人等に書面で通知されます。ただし、例えば後見開始の申立をしたのに審判では保佐開始の審判が下った、といった場合は、2週間以内であれば本人や利害関係者が不服申立を行うことができます。

なお成年後見人等の選任については、不服申立を行うことができません。例えば「候補者以外の人がなぜ後見人等に選ばれたのか」といった不服申立は行えません。

このように、必ずしも申立どおりに審判が下るとは限らず、また成年後見人等については、裁判所が選任した人以外がなることはできません。

なお、候補者以外の人が後見人等に選任されるケースや、後見人等をサポートする「監督人」が選任されるケースは次のとおりです。

(1)親族間に意見の対立がある
(2)流動資産の額や種類が多い
(3)不動産売買の予定があるなど、申立の経緯が重要な法律行為を含んでいる
(4)遺産分割協議など、後見人等と本人との間で利益相反する行為について、監督人に本人の代理をしてもらう必要がある
(5)候補者と本人との間に高額な貸借や立替金があり、その清算の可否などについて第三者による調査・確認が必要と判断された
(6)申立以前に候補者と本人との関係が疎遠だった
(7)年間の収入および支出が過大、年によって収支に大きな変動が見込まれるなど、第三者による収支の管理が必要と判断された
(8)候補者と本人との生活費などが十分に区別されていない
(9)申立時に提出された財産目録や収支予定表の記載が十分でないなど、後見人等としての適格性を見極める必要があると判断された
(10)候補者が後見事務に自信がなかったり、相談できる者を希望したりした
(11)候補者が自己もしくは自己の親族のために本人の財産を利用(担保提供を含む)し、または利用する予定がある
(12)候補者が本人の財産の運用(投資など)を目的として申立している
(13)候補者が健康上の問題や多忙などで適正な後見等の事務を行えない、または行うことが難しいと判断された
(14)本人について、訴訟・調停・債務整理等の法的手続を予定している
(15)本人の財産状況が不明確であり、専門職による調査が必要と判断された

これ以外のケースでも、裁判所の判断によって候補者以外の人が後見人等に選任されることや、候補者を後見人等に選任した上で監督人が選任されることがあります。

審判の確定後の「登記」

後見等開始審判の確定後は、法務局に審判の内容を登記する必要があります。家庭裁判所または公証人の嘱託によって行われ、登記後は申請書を法務局に提出すれば登記内容を確認できます。

なお申請できるのは、本人のプライバシー保護のため、本人・配偶者・4親等内の親族・後見人など限られています。また登記の内容は、戸籍には記載されません。

このように申立後には様々な手続きが行われ、後見等開始の審判・後見人等の選任を経て、本人に対しての後見等がスタートします。

このページのコンテンツを書いた相続士

澤田 朗
澤田 朗
相続士、AFP
1971年東京都生まれ。FP事務所FP EYE代表。NPO法人日本相続士協会理事・相続士・AFP。設計事務所勤務を経て、2005年にFPとして独立。これまでコンサルティングを通じて約1,000世帯の家庭と関わる。

相続税評価額算出のための土地評価・現況調査・測量や、遺産分割対策、生命保険の活用等、専門家とチームを組みクライアントへ相続対策のアドバイスを行っている。設計事務所勤務の経験を活かし土地評価のための図面作成も手掛ける。

また、住宅購入時の物件選びやローン計画・保険の見直し・資産形成等、各家庭に合ったライフプランの作成や資金計画のサポートを行っている。個人・法人顧客のコンサルティングを行うほか、セミナー講師・執筆等も行う実務家FPとして活動中。

FP EYE 澤田朗FP事務所

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