遺言作成は遺言執行を見据えて

  前回のコラムで、遺言を作成するときは書き記す内容を工夫してみてはいかがでしょうか、とお話ししましたが、大前提としては法的要件を充たす遺言事項をしっかりさせる必要があります。

 気をつけなければならないのは、法的要件を充たしていても実行する(遺言執行する)ときに、問題が発生してしまうような内容では遺言を作成した意味がなくなってしまいます。

遺言作成相談を受けた専門家がこんなアドバイスをすることがあります。

「私には子供が三人いるのですが、一番下の子が一番親の面倒を看てくれているので、上の二人より一番下の子の相続分を増やしてあげたいのですがどうしたらいいでしょうか」という相談者への回答として、「配偶者と子供三人が相続人であれば子供の法定相続分は一人あたり6分の1ですから、一番下の子の法定相続分を4分の1にしてあげたら法定相続分が増えますので、報いてあげることができます。方法としては遺言を作成して法定相続分を4分の1に変更する旨記載すれば良いのです。」

 さて、この相談者がこの回答通りに遺言を作成したらどうなるでしょうか。

 遺言は法定相続分を変更することができる唯一の方法で、相続分の指定という遺言事項で可能となりますので、法的には何の問題もなく有効な遺言となります。しかし、遺言の果たす役割の一つに「争い防止」というものがあります。この相談者も親の面倒を看てくれる一番下の子に報いるためにという動機で遺言を作成することを決意しましたが、もしこの遺言が元で子供同士の争いに発展してしまったら報いるどころの話ではなくなってしまいます。

 では、相続で争いが起きるのは何故でしょうか。争いの元はほんの些細な着火点ではないかと思われます。それは、「遺産の分け方」です。どのように分けるのか、どうしたら公平・平等なのか、相続人間で話し合いがまとまらない状況が最初の着火点です。最初の小さな着火点では多くの場合「どうしよう」という困惑が始まりです。しかし、それがだんだんと各々の主張が大きくなり、考え方の違いや今置かれている状況などによる意見の食い違い、感情的なもつれなど様々な要因によって大きく発火してしまい、共同相続人間の争いと発展しまう可能性があります。

 昔からうちの家族はみんな仲が良いから、などと相続が争いにならない理由づけをすることがありますが、親兄弟より今の配偶者との生活の方が長いということも珍しくありません、いや、その方が多いのかもしれません。そうなると各々の家庭の事情なども考慮された相続人の主張も十分あり得ますし、公平・平等という基準も個人によって違ってきますので、みんなが公平・平等にという考え方は難しいのが当たり前ではないでしょうか。

そんな状況下で遺産の分け方を話し合うのですから上手くまとまらないのも当然といえましょう。上手くまとまらなければ争いに発展する可能性も出てきます。共同相続人間で遺産の分け方を決めることができないのなら、元々の所有者が決めてしまい相続人同士が争わないようにするというのが、遺言作成の目的の一つです。

 遺言者が遺産となる財産を自分の死後誰にどのように分け与えるかを決めておくのですが、この決め方が問題です。

 前述の例のように6分の1を4分の1にという法定相続分の割合変更だと、そのように分けるためにはどうするかを共同相続人間で話し合わなければならなくなります。割合の変更という漠然とした指定では話し合いも上手くまとまる可能性は低く、争いに発展する可能性も秘めています。

 争いを想定せずに単に特定の子に報いるための遺言であっても、争いに発展する時限爆弾となり得るわけす。 争いの場となる遺産分割協議を行なうことなく遺産の分割が行なえるように遺言を作成したのに、遺言の作成により複雑な遺産分割協議を行なわなければならないという結末は好ましくありません。

 遺言を作成するのであれば、具体的に何を誰に相続させるかはっきり決めておく必要があります、そしてそれを遺言に明記しなければなりません。

 遺言は遺言執行時を見据えて作成することが望ましいといえるでしょう。

 

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希【プレミアムメンバー】
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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