特別寄与料請求権と相続対策

特別寄与料請求権という権利が今回の民法改正において新たに新設されました。これで相続における争いが回避できるのでしょうか、特別寄与料請求権についての解説と共に考察してみたいと思います。

特別寄与料請求権とは、被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について「特別の寄与」をした被相続人の親族に与えられる権利で、相続開始後に相続人に対して寄与に応じた額の金銭の支払いを請求できるというものです。

ここで問題なのが、「特別の寄与」の解釈です。相続法における「寄与分」の条項の中に「特別の寄与をした者」という規定がありますが、親族法における「直系血族の扶養義務」と「特別の寄与」との線引きができずに、どこまでが扶養義務の範囲でどこからが特別の寄与なのか、という確定しようのないことで争いになってしまい、共同相続人間では協議がまとまらず、裁判所での調停や審判へとつながってしまうケースが多く、法律の専門家によっては「寄与分は認められないからダメです」とバッサリと切り捨てるように言ってしまう人もいるほどです。

又、特にここで問題なるのが、「寄与をした者」が直接の扶養義務がある相続人ではなくて「相続人の配偶者」であることが多く、「寄与分が認められる対象は相続人」という規定に該当しないため尚更寄与分が認められづらくなっていたという状況でした。争わず泣き寝入りというケースも多かったのではないでしょうか。このような状況を鑑みて今回の民法改正によって、「相続人の配偶者」にも権利を与えたのが「特別寄与料請求権」です。この権利の行使期間には制限があり、相続の開始および相続人を知っった時から6ヶ月以内、又は相続開始の時から1年以内となります。真に介護をしている者であれば特に問題のない期間だと思いますが、権利を行使しようかどうか迷った場合などは、特に介護をしていた者は被相続人の身の回りの後片付けなども強いられる可能性もあるので、迷う気持ちと日々の忙しさとが相俟って、あっという間に経過してしまう期間でもあるので注意が必要です。

特別寄与料請求権の権利行使をする場合、まずは相続人に対して行ない協議をすることから始まります。ここで話がまとまらなければ「争い」に発展しかねません。

相続人との協議が調わないとき、又は、協議すらできないときは特別寄与者は家庭裁判所に対して「協議に代わる処分」を請求することができます。つまり、家庭裁判所に対して「特別寄与料の額を決めて下さい」と請求する権利もあるということです。

相続人は協議にしろ裁判所の決定にしろ、特別寄与料の決定額を法定相続分或いは指定相続分に応じて負担しなければならない規定になっていますから逃げることはできません。逃げることはできませんが場合によっては「争い」という手段に出る可能性もあります。

今回の民法改正による「特別寄与者の特別寄与料請求権」の創設は意味のあることかもしれませんが、請求する特別寄与料の金額の設定方法等の基準がない(基準を作ること自体無理な話なのですが)ため、又、権利を行使できる特別寄与者となるべき基準もない(この基準も作成は無理でしょう)ため、悪用の可能性もゼロではなく、今後の寄与分をめぐる、もっと言えば「親の介護」をめぐる相続問題をより複雑なものにしてしまう可能性もあります。

だからこの規定はダメということではなくて、このような状況を想定しながら、相続対策をしていく必要があるということを考えなければなりません。

例えば、寄与分を考慮した遺言の作成、特別寄与料請求権の行使を考慮して親の介護の開始時に或いは介護を始める前に、全相続人と介護当事者による協議を行なってあらかじめ決定事項としておくことなど、相続開始時に「こんなはずじゃなかった」ということにならないように準備しておくことが、今まで以上に重要なことになるのではないかと思います。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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