相続専門用語の表現に関する考察
相続について語ることが一般的になってきた昨今では、様々な分野の専門家が相続の専門家を称して相続についてうんちくを述べています。
しかし、残念ながらこれは違うなと思わせる言葉や表現が度々あります。
代表的な例として「遺留分減殺請求」という言葉が今なお使用されることがあります。
民法改正により「遺留分減殺請求権」は「遺留分侵害額請求権」に変更となりました。
遺留分に関する説明を行う際に、「遺留分減殺請求」や「遺留分減殺請求権」という形で表現してしまっているケースが今だにあることには驚きます。
おそらく、言葉の意味や効果等を理解していないことが原因ではないかと思います、何かのテキスト等で言葉そのものを、こういうケースで使うのだと単純に丸暗記したのでしょう。
民法改正前の「遺留分減殺請求」は、遺留分を侵害する遺贈や贈与に対して遺留分を侵害する限度でその効力を失効させ、その目的財産の権利を遺留分権利者に帰属させる、という物権的効果を発生させ、現物返還の原則をとっていました。この場合に「減殺」という遺贈等の効力を失効させる意味の言葉が使用されていたので「遺留分減殺請求」という表現になっていました。
民法改正後は、遺留分の侵害に対する侵害された遺留分権利者の請求の効果として、遺贈や贈与を失効させて物権的効果を発生させる必要はなくなり(失効させる意味のある「減殺」という言葉を使う必要がなくなり)、その代わりに遺留分を侵害する限度で「金銭債権」が発生し、遺留分を侵害していた受遺者や受贈者は負担額に応じた金銭債務を負うことになり「遺留分侵害額請求」という表現になりました。
次に代表的な例であり、今後も続く可能性のある間違いは、「熟慮期間の起算点」に関する表現です。
相続放棄等の期間3ヶ月について「相続発生から」と言ってしまう、あるいは表現してしまうケースが後を断ちません。(相続を多数経験していると謳っている士業であっても「相続発生から」と言っている人がいます。)
少し違う話になりますが、以前こういうことがありました、某士業に相続放棄について相談したところ、あなたが相続放棄したらあなたのお爺さんに借金の請求がいってしまいますよ、と言われ相続放棄を躊躇してしまい熟慮期間の終期まで1ヶ月を切っているときに私に相談に来た、というものです。
最初に相談した某士業がしっかりとした説明をしなかったことで相談者である相続人は迷い悩み無駄な時間を過ごしてしまったわけです。
しっかりとした説明というのは、専門用語を乱発するのではなく、素人の方に分かるように、かつ、漏れのないように的確にする必要があります。
前例で言えば、某士業はお爺さんに借金の請求がいってしまいますよ、で終わらせるのではなく、お爺さんも相続放棄の手続きをとることできる旨をしっかり説明しなければなりませんでした(実際に、相談者はその話は聞いていないとのことでした)。相続放棄についてしっかりとした説明ができなくて相談者の判断を鈍らせた例と言えます。
話を戻します。「相続発生から」というのは分かりやすく簡単にするためと言われるかもしれませんが、それなら「相続の開始を知った時から」というべきだと思います。
本来は「自己のために相続の開始を知った時から」ですが、「自己のために」というのが聞きづらかったり、理解しづらかったりするかもしれませんから、詳細説明時にお話しすればいいかもしれません。
その他、数次相続、再転相続、相次相続(控除)の混同によるミスリードなどもよく見聞きするミスの典型です。
相続は専門的な分野ですから一般の方には分かりづらいことが多々ありますので、よく噛み砕いて説明しなければなりません。
「相続発生から」と「自己のために相続の開始があったことを知った時から」では起算点が違ってきますので、対応方法が変わってしまい重要な違いが発生してしまう可能性があります。
相続の専門家は、相談者や依頼者は何も分からないという前提で、分かりやすく、間違いのない言葉でしっかりと説明し、明確な指針を示し、相談者や依頼者がよく考えて判断できるようにしなければならないと思います。
それが相続専門家の責務であると考えます。
このページのコンテンツを書いた相続士
- 行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所
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