夫婦
相続のときに常に相続権を有し、他の相続人より多くの法定相続分を有する配偶者、権利を有するが義務も有するのが法律婚の配偶者です。
相続法の改正による配偶者居住権の創設など、配偶者は保護の対象としてみられていますが、これは法律婚の配偶者だけです。
相続では配偶者というように一方のみを表現する形になってしまいますが、元のところは夫婦です。法律婚というように、法律上の夫婦には様々な規定が適用されます。
法律婚はまず夫婦同氏制が適用されますので、婚姻中は選択した氏を継続し、仮に離婚した場合でも本人の希望により離婚の日から3ヶ月以内に戸籍法による届出をすることで婚姻中の氏を称し続けることが可能です(社会生活上必要な場合はこのような選択をする人もいます)。
婚姻した夫婦のいずれかが他の者と養子縁組をした場合ですが、甲と乙が甲の氏による婚姻をした後、①甲が丙の養子になったとき、甲は原則(養子は養親の氏を称する:民法810条)どおり丙の氏になり、それに連動して乙も丙の氏となります。②乙が丙の養子になったとき、乙は甲との婚姻中は甲の氏のまま変わりません(婚姻によって氏を改めた者については、婚姻の際に定めた氏を称すべき間は、養親の氏を称さない:民法810条但書)。
法律婚の夫婦(以下、「夫婦」といいます)には、同居・協力・扶助・貞操の義務があります。夫婦間の扶養義務に関しては、自己の生活を切り下げてまで自己と同程度の生活をさせる義務という、親族間の扶養義務(生活扶助義務)より程度の高い、「生活保持義務」があるとされています。日常生活においては意識しないことだと思いますが、通常の(特別な事情のある場合を除いて)夫婦であれば、生活レベルというのは同程度になるのは当然のことだと思いますが、一方が他方の、あるいは、お互いに影響を与えながら日常生活は送られるのだと思います。
ある意味一つの共同体ですから、一方の相続において他方が保護の対象となったり、他の相続人より有利な相続分となるのも当然のことかもしれません。
夫婦の財産は夫婦財産制により、婚姻前に夫婦財産契約を定めている場合(契約財産制)を除き、法定財産制が適用されます。
法定財産制においては、夫婦は婚姻から生じる費用を分担しますが、夫婦間の財産は原則として夫婦別産制とされています。夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産(例えば、相続や贈与で得た財産)は、その者の単独で所有する特有財産となり、夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その夫婦の共有財産というものです。特有財産には、婚姻中に各自が得た収入や収入で得た財産も含まれるという解釈のようですが、現実は、婚姻中に各自が得た収入や収入で得た財産については他方の配偶者の協力のもと取得したものとして、実質的には夫婦の共有財産となることがほとんどです。
夫婦は、日常の家事に関する債務を連帯して責任を負うこととされています。日常家事とは、夫婦が日常の家庭生活を営む上で通常必要とされるもので、衣食住に関する日用品の購入、保健・医療・教育・娯楽等に関する契約のほか、日常生活に必要な範囲といえる金銭消費貸借契約も含まれます。これらの日常家事に関して夫婦の誰の名義で契約しようとも、それによって生じた債務は夫婦の連帯責任ということになります。
夫婦別産制を原則(民法762条)としながらも、日常家事の債務に関しては別債務とせずに連帯責任(民法761条)としています。
簡単ですが、夫婦について民法上の規定を中心にみてきました(離婚については今回は除いています)。
相続において、配偶者は常に相続人となり法定相続分も他の相続人より多く、配偶者を保護することを前提とした規定もあります。
被相続人となる者の配偶者は、夫婦として、共に財産を築き、互いに連帯責任を負い、長年連れ添って苦楽を共にしてきたわけです。相続発生時には多くの場合、遺された配偶者は高齢となり生活基盤の確保は重要課題となります。
遺産をどう分けるか、配偶者の今後の生活をしっかりと考えていかなければなりません。
相続の形態によっては様々な相続人が登場する可能性があります、なかには「笑う相続人」と呼ばれる人もいるかもしれません。場合によっては、配偶者の生活レベルを維持した遺産分割の可能性が低くなることもあります。
自分が亡くな
ったときの相続関係(人・物・金)を把握して、事前の準備をしておくことも必要かと思います。
自分が亡くなった後に遺される配偶者のこと、夫婦の「生活保持義務の延長線上のものとして考えてみてはいかがでしょうか。
このページのコンテンツを書いた相続士
- 行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所
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