遺産分割における配偶者の生活基盤の確保

遺産分割協議は共同相続人全員の参加により行われるものですが、共同相続人の属性によって遺産分割協議も様々なものになっていきます。

例えば、被相続人の配偶者と子供という典型的なパターンがありますが、この中でも普段から一緒に過ごしている親子、住居のみならず心情的にも距離のある親子、前妻の子と後妻という関係など、様々な要因を含んだ関係性があります。

こういった状況下で遺産分割をうまくまとめていかなければならないのですが、関係性や親の年齢によっては子供の方が主導権を握って配偶者はそれに従わざるを得ないということもあり得ます。この場合ですと子供が自分の権利を主張することがメインになってしまい、高齢となった被相続人の配偶者のことはあまり考えない(自分のことで精一杯で周りが見えなくなっている)ということが起こりがちで、そうなると高齢となった配偶者にとっては分の悪い結果となり、自己主張を抑えた配偶者が泣きをみる(仕方なく我慢をする)羽目になってしまいがちです。最悪の場合、遺された配偶者の生活は困難を極めるなんてことにもなりかねません。

 相続の専門家は、このようなことをできるだけ回避するために、遺産分割協議においては「遺された配偶者の生活基盤の確保」という点を重要視して、配偶者のこれからの生活が困難にならないように考えて分割方法を話し合うようにアドバイスをしたり、分割案の提示を行うことが必要になります。

 しかし、共同相続人の関係性や遺産の属性によっては、それも難しいことが多々あります。

遺産分割協議がうまくいかなく、結果的に、相続開始後の生活に困難が生じてしまうこともあり得ます。例えば、住み慣れた住居を売却しなければならなかったり、遺産のうち預貯金の分割が少なく生活資金の確保が難しくなるなどです。

 このような状況の救いの手となり得るのが、「配偶者居住権」です。

遺産分割の際に、遺産に居住用建物がある場合、その建物の所有権を取得するのではなく、居住権を取得します。そうすることで所有権を取得するよりも遺産の取得価額としては低くなりますので、その分ほかの遺産(例えば、預貯金)を多く取得することができ、今までどおり住み慣れた住居に住み続けながらも生活資金を確保できるというものです。。

しかし、当該不動産の売却等を将来的に考える場合には、配偶者居住権自体がネックになることもありますので、デメリットも含めて「所有権」との比較で検討しなければならないでしょう。

「配偶者居住権」が最優先ということではなく、第一に「所有権」の取得を検討しながら、他の選択肢として「配偶者居住権」もあるという考え方が基本となるのではないかと思います。

 しかし、「配偶者居住権」を敢えて選択するという場合もあります。例えば、先祖代々引き継がれている不動産を前妻の子(被相続人にとっての長子)に引き継ぎたいが、被相続人が晩年になってから再婚した配偶者(子なし)の生活も守りたいというような場合に、遺言によって「所有権」を長子に、「配偶者居住権」を配偶者に、というような指定を行ない、配偶者の生活基盤を守り(住居を確保し)ながら、遺産の承継を長子に指定する、という「後継ぎ遺贈型遺言」と同じような効果をもたらすことも可能になります。

 遺産分割(協議)においては相続人それぞれの想いが交錯し、まとめるのが難しい状況にもなります。一次相続においては一方の親が存命ですから、親の今後の生活を考えた遺産分割にし、更には、その一方の親が亡くなったとき(二次相続)のことも考慮して、一次相続の遺産分割を円満に成し遂げたいものです。

 高齢となった親の今後の生活のことを考えるという姿勢(思考)が、円満な遺産分割に繋がるのかもしれません。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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