相続は会議室(机上論)ではなく現場(実務)で起きている!

昨今の相続ブーム(?)で「猫も杓子も相続」というかの如く、「相続専門」の看板を掲げているところが多くなりました。

しかし、この「相続専門」の看板を掲げている専門家のうち本当の専門家はどれくらいいるのでしょうか。

一般的に相続の専門家と言われているような資格を取得した人が資格取得のために勉強した知識だけで相続の専門家を名乗っているケースも珍しくありませんし、相続に関係する分野だから相続の専門を唱っておけば仕事が入る確率が上がると思い、自分の専門分野と相続を結びつけて「相続」というフィルターを通して自分の専門分野の収入に結びつけていることもあるのではないでしょうか。

これらの場合、資格テキストあるいは市販されている本をもとに勉強して、いわゆる「机上理論」だけで相続案件に対応しようとしている場合も珍しくありません。

「机上論」と「実務」の『乖離』というものを理解していないケースがよくあります。

例えばこういうケースではどうでしょうか。

親の面倒をよく看てくれる二女に対して長女や三女より少しでも多くの財産を承継させてあげたいという相談があった場合に、遺言による相続分の指定という手段を選び法定相続分の割合変更を勧めました。つまり、二女の法定相続分3分の1の割合を2分の1に変更する旨の公正証書遺言の作成を勧めたということです。この場合、二女の法定相続分が2分の1になったことで長女と三女は法定相続分4分の1に変更されてしまうというものです。

さて、これは・・・?

このケースは(「机上論」として)法的には有効です。しかし、これでは遺言の果たす役割、そうです相続を争族にしないための役割が果たせません。何故か?割合指定の変更を勧める人はこの問いに答えられないのではないかもしれません。聞けば、何だそんなことか、と言われるようなことかと思いますが、聞かなければ気付かない、知識を知識のまま用いているだけで実務に即した運用が出来ていないということになります。

ではこの場合何が悪くてどうすればいいのでしょうか。

遺言の果たす役割の一つに「争族防止」という重要な役割があります。「争族」というのは相続人同士が相続をきっかけに(原因として)争うことですが、争う理由はどこにあるのかというと「遺産の分け方」です。どのように分けるのが良いのか、共同相続人各々の思惑が背後にありますからなかなかうまく話はまとまりません、ましてや「平等」や「公平」などというものは個人によって基準が違いますからますますおかしな話になってしまいます。ですからそのような話し合いの場である「遺産分割協議の場」が争いの場になるわけです。

そのような「遺産の分け方を話し合う」必要を無くす、つまり「争いの場」となる「遺産分割協議の場」を無くすために、予め遺産の所有者である遺言者が「遺言で遺産の帰属先を決める」ことが「遺言の争族防止効果」となるわけです。

それなのに、その遺言の内容が「二女の法定相続分3分の1を2分の1に変更する、長女と三女は4分の1に変更する」旨のものであったら、そのような割合になるには遺産をどのように分けるか話し合わなければならなくなるのです。結局、争いの場である「遺産分割協議の場」を設けなければならなくなるという結末になってしまうのです。

このような現場(実務)を理解していないと割合変更という机上論での話を勧めてしまう訳です。

遺言による指定を行う場合には、割合変更の指定ではなくて、具体的に何を誰に相続されるか指定することが重要となります。

相続の現場は机上論では片付きません。法律の文言では人は納得しません。

いかに中庸を得た考えで話をまてめていくか、現場実務の知識とその運用経験がモノを言います。

相続は会議室(机上論)で起きているのではなく、現場(実務)で起きています。

悪しからず、、、。

このページのコンテンツを書いた相続士

中島 浩希
中島 浩希
行政書士、宅地建物取引士、相続士上級、CFP
東京都小平市出身。法政大学経済学部卒。リース業界・損害保険業界を経て、2007年相続に特化した事務所を開設し、現在も一貫して「円満相続と安心終活」をモットーに相続・終活の総合支援を行っている。相続・終活における問題の所在と解決の方向性を示す的確なマネジメントと親身な対応が好評を得ている。相続専門家講座の専任講師として相続専門家の育成にも助力している。日本相続士協会専務理事。
中島行政書士相続法務事務所・ナカジマ相続士事務所

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