遺留分と生命保険

生命保険が遺産分割対策に活用されるケースも多くあります。例えば、相続財産が分割しにくいものだったり、自社株など特定の相続人に相続をさせたい場合、他の相続人が相続できる財産が少なくなるケースがあります。場合によっては特定の相続人の遺留分を侵害して減殺請求を起こされることもあります。

例えば父と長男が事業をしていて、父の相続財産の大半である自社株を長男に相続させたいとします。ほかの相続人、例えば次男の相続財産が少なくなりますので、遺留分相当額の死亡保険金の受取人を次男として、父が生命保険に加入をするとします。

契約者被保険者死亡保険金受取人
被相続人(父)被相続人(父)相続人(次男)

 

次男が受け取る財産の額は長男よりも少なくなりますが、法的には丸く収まったような気がします。が、前回のコラムでお伝えしたように死亡保険金は「受取人固有の財産」となります。

http://www.souzokushi.or.jp/sawada/1222

遺留分を侵害された次男は、生命保険契約によって死亡保険金を受け取ったとしても、それとは関係なく長男に対して「遺留分の減殺請求権」を行使できる、ということになります。ですので、上記の契約形態では遺留分の問題について完全に解決はできないことになります。

このような遺留分の問題を解決するために、生命保険と代償分割を一緒に考えた遺産分割対策も活用されています。上記のような自社株のように、相続財産のほとんどが分割困難な財産で占められていて、次男の遺留分が侵害される場合、契約者・被保険者を父とする生命保険契約の死亡保険金受取人を長男とします。相続発生後は、受け取った死亡保険金のうち遺留分相当額を代償交付金として次男に交付します。

契約者被保険者死亡保険金受取人
被相続人(父)被相続人(父)相続人(長男)

 

次男が受取人のケースでは、遺産分割協議に首を縦に振らない、遺留分の減殺請求を起こされるというリスクがあります。では、受取人が長男なら問題はないかというと、法的には問題なくても長男が相続財産のほとんどを相続し、さらに保険金をも受け取ることになるので、当然ですが次男としては不公平な遺産分割だと感じると思います。

 

長男が自らのお金で保険料を支払い、下記のような契約形態で死亡保険金を受け取れば、次男の不満もいくらか解消できるかもしれません。ただしこちらは長男に、遺留分相当額の死亡保険金を準備できる保険契約ができるだけの資金があるということが前提になります。

契約者被保険者死亡保険金受取人
相続人(長男)被相続人(父)相続人(長男)

 

どのような方法でも完璧なものはなく、このようなケースでは父親が生前から主導となって事を進めないと成り立たない話だと思います。昔は家督相続が当たり前でしたが、現在は相続人が持っている権利を主張する「均分相続」の時代です。場合によっては相続人の周りの思惑や入れ知恵などが渦巻く、ドラマのようなどろどろとした相続にもなりかねません。生命保険も万能ではありませんので、他の対策と合わせて少しでも相続人間の争いがなくなるような活用をしていただきたいと考えています。

このページのコンテンツを書いた相続士

澤田 朗
澤田 朗
相続士、AFP
1971年東京都生まれ。FP事務所FP EYE代表。NPO法人日本相続士協会理事・相続士・AFP。設計事務所勤務を経て、2005年にFPとして独立。これまでコンサルティングを通じて約1,000世帯の家庭と関わる。

相続税評価額算出のための土地評価・現況調査・測量や、遺産分割対策、生命保険の活用等、専門家とチームを組みクライアントへ相続対策のアドバイスを行っている。設計事務所勤務の経験を活かし土地評価のための図面作成も手掛ける。

また、住宅購入時の物件選びやローン計画・保険の見直し・資産形成等、各家庭に合ったライフプランの作成や資金計画のサポートを行っている。個人・法人顧客のコンサルティングを行うほか、セミナー講師・執筆等も行う実務家FPとして活動中。

FP EYE 澤田朗FP事務所

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