マイナンバーと相続

ご承知のとおり、平成28年1月より「社会保障・税番号制度」いわゆる「マイナンバー制度」が導入されました。この制度は今までの縦割り行政の弊害を解消し、住民サービスの向上が期待できるとされています。こちらについての賛否はともかく、マイナンバー制度が導入されたことによって、相続の手続きや対策にどのような影響等があるのでしょうか。まずはこの制度を導入することによって、行政がアピールしているメリットについて見ていきたいと思います。

 

■行政の効率化

制度が導入された現在は、国や自治体等での手続きを行うにあたり、個人番号の提示や申請書への記載等が求められています。この情報が蓄積され、国や自治体などの間で番号の情報連携が始まると、これまで相当な時間がかかっていた各種情報の照合・転記等にかかる時間や労力が大幅に削減されるなど行政の効率化が進み、手続きが正確でスムーズになるとしています。

例えば、戸籍証明書を取得するには、本籍地の役所へ足を運んで交付の手続きをするか、郵送で本籍地のある役所に交付を依頼する必要がありますが、平成28年5月から「マイナンバーカード」を使って全国のコンビニで戸籍証明書を交付できるサービスが一部の市区町村で始まりました。ただ利用できる自治体はごくわずかで、全国的に普及するのは相当な時間がかかると思われます。

コンビニ交付の利用ができる市区町村 https://www.lg-waps.jp/01-04.html

 

■利便性の向上

これまでは、各自治体や税務署、年金事務所など複数の窓口で書類を入手して提出するということがありましたが、制度導入後は、社会保障・税関係の申請時に課税証明書などの添付書類が削減されるなど、面倒な手続きが簡単になるということです。

相続をした不動産の登記をする際に、登記簿謄本・住民票・戸籍謄本・印鑑証明書・固定資産評価証明書等をまとめて入手できるようになれば、手続きにかかる時間と手間を今よりも大幅に短縮できるため、利用する側にとってもメリットはあると思います。

 

■公平・公正な社会の実現

制度導入後は、国民の所得状況等が把握しやすくなり、税や社会保障の負担を不当に免れることや不正受給の防止、さらに本当に困っている方へのきめ細かな支援が可能になる、としています。

金融機関については、銀行等には平成30年1月から、預金情報をマイナンバーにより検索可能な状態で管理する義務が課される予定です。これは、国税当局からの照会に効率的に対応することができるようにするためです。預金者は、銀行等からマイナンバーの告知を求められることになりますが、法律上告知義務はありません。ただし、告知状況をふまえて、「必要と認められるときは、預金口座への付番促進のための所要の措置を講じる旨の見直し規定を法案の附則に規定」となっていますので、すべての預金口座がマイナンバーで管理される日もそう遠くない気がします。

また平成30年12月31日までに、すべての証券会社の口座にはマイナンバーの登録が必要となります。平成28年1月以降に開設した口座は開設時にマイナンバーの提示が必須になっており、それ以前に開設した口座についても平成30年12月末日までには登録が必要となっています。

これらにより、銀行等の預金口座および証券口座については、平成30年12月末日にはマイナンバーの登録が完了することになります。

 

■相続には影響が?

このような3つのメリットがあるとされているマイナンバー制度ですが、本格的に導入が進み、各自治体や省庁に情報が蓄積されると、相続にはどのような影響が出てくるでしょうか。

手続きの面で言えば、書類の収集などの手間が軽減され利便性は高まることが考えられます。被相続人がどこの金融機関に口座を持っていたか、慌てて探す必要もなくなるかもしれません。

裏を返せば、各自治体や省庁も被相続人の情報を今まで以上に把握できるということです。例えば、被相続人の口座から生前に多額の出金があったり、被相続人と相続人の口座間で不自然なお金の流れがあった場合には、従来よりも指摘される可能性が高くなります。よく言われていることですが、制度の導入が進むほど個人情報が丸裸になっていくことになります。

ただし、相続対策においては提案する相続士もクライアントも、法に反することなくまっとうな手段でまっとうな対策をしていれば、何ら指摘されることはありませんし、指摘に対する説明等を行うこともできます。マイナンバー制度の導入によって、今まで以上にモラルの高い相続対策とともに、相続に関する高い知識が必要となると考えています。

このページのコンテンツを書いた相続士

澤田 朗
澤田 朗
相続士、AFP
1971年東京都生まれ。FP事務所FP EYE代表。NPO法人日本相続士協会理事・相続士・AFP。設計事務所勤務を経て、2005年にFPとして独立。これまでコンサルティングを通じて約1,000世帯の家庭と関わる。

相続税評価額算出のための土地評価・現況調査・測量や、遺産分割対策、生命保険の活用等、専門家とチームを組みクライアントへ相続対策のアドバイスを行っている。設計事務所勤務の経験を活かし土地評価のための図面作成も手掛ける。

また、住宅購入時の物件選びやローン計画・保険の見直し・資産形成等、各家庭に合ったライフプランの作成や資金計画のサポートを行っている。個人・法人顧客のコンサルティングを行うほか、セミナー講師・執筆等も行う実務家FPとして活動中。

FP EYE 澤田朗FP事務所

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